第6章 昨日の友は……

20kmほど進んだろうか、今は荒れ地を走っている。草木がないが砂漠ではない。地面は乾いてひび割れしている。
「ジャイアン、大丈夫かな……」
のび太が不安そうに言った。
「大丈夫だよ、のび太君。あのジャイアンだもの」
ドラえもんが言った。
出木杉は荒れ地を見ている。そして、あることに気づいた。
……遠くに人影がある。
……しかも腕が2本だ。
(あれは……、武君!?)
その人影はだんだんとこちらに近づいてきている。こちらはトラックなのだが。
「ちょっとトラックを止めて下さい」
出木杉が言った。みんなは「いったいなんだ?」と思った。
トラックが止まった。そしてみんなも気づいた。
「ジャイアンがこっちに向かってきてる!」
スネ夫が叫ぶ。
その次の瞬間にはジャイアンはすでにここに着いていた。人間とは思えない速さだ。
みんなは外に出た。
「ジャイアン!」
のび太はジャイアンに向かって走った。
次の瞬間、のび太は消えた。
……いや、消えたのではない。吹っ飛ばされたのだ。
のび太は仰向けに倒れ、気絶している。
普段のジャイアンではない。よく見れば目が虚ろだ。
「反……逆者……は殺……す」
「反逆者は殺す」途切れ途切れだったが、ジャイアンは間違いなくそう言った。
『洗脳』……。あのときヴァラフォヌスはこう言った。「……『ディルヴィアスが、侵略した星のヒトを、仲間に引き入れた』というものなんだ。『引き入れた』と言っても、実際は『洗脳』したらしいんだがな」……そう、『侵略した星のヒト』というのは、やはりジャイアンだったのだ。
「そんな……、武君が……」
出木杉でさえ、とても動揺している。あのジャイアンが洗脳されるとは……。
ジャイアンが襲いかかってきた。みんなは間一髪でよけた。
(ジャイアン、まさか君がそんな……そんな風になってしまうなんて……いったいどうすれば元のジャイアンに戻るんだろう)
のび太が目を覚ました。
「いったい何があったの……?」
ドラえもんはのび太に、手短に説明した。
「そんな……」
ジャイアンはこちらに向かってきた。そして殴りかかる。
……それからしばらく経過した。
みんなはすでに全身怪我だらけだ。
洗脳されたジャイアンは、自らの力を120%出せる暗示をかけられたためか、人間離れしたパワーとスピードで襲いかかってくる。しかし、いっこうにとどめを刺す気配がないのだ。
(これは……、ひょっとして……とどめを刺すのを躊躇している!?)
出木杉はそう考えた。
【あとがき】
時間をかけた割には、かなり短くなってしまいました。
さて次章はいよいよ前半最終章となります。
ジャイアンを無事に助けられるのか?(まぁ、助けられなかったら物語はそこでお終いですから……)
前半最終章である第7章のタイトルは「心の友よ」です。
それではまた─────

第7章 心の友よ

ディルヴィアス宮殿……
「いっこうにとどめを刺さぬではないか。どうなっておるのだ」
「全ては予定通りです、陛下」
謎の男は続けた。
「あのものが完全に我々の味方になることはあり得ません。いずれは洗脳が解けてしまうはずです。そのうちこちらにやってくるでしょうから、それまで泳がせておきましょう」
そのころ、ジャイアン達は……
「これじゃあいつまで経ってもきりがない!なんか、ジャイアンの洗脳を解く方法はないか?」
ドラえもんが言った。
「あのさぁ、さっきから気になっていたんだけど、武君、一向にとどめを刺してこないと思わない?だからあれはおそらく、洗脳が解けかけている、或いは元々不完全な洗脳だったんじゃないか、と思うんだ。ということは、何か、切っ掛けさえあれば、洗脳が解けて、普段の武君に戻るんじゃないかな」
出木杉が言った。するとスネ夫が、ドラえもんにこう言った。
「ジャイアンのママを出せば良いんだ!ドラえもん、『どこでもドア』」
なかなか良いアイディアだ!そう、のび太達は思った。しかし、ドラえもんはあっさりと否定した。
「どこでもドアで行くことの出来るのは、十光年以内に限られる。ここから地球まではそれよりもずーっと離れてるんだ。仮に十光年以内だったとしても、時空間が未だ乱れたままだから、そんなときにどこでもドアを使えば、大変なことになる。超空間に閉じこめられて、二度と出てこられなくなるかもしれないんだ」
「そんなぁ」
みんなはがっかりした。
「でも、ジャイアンのママに化けることなら、出来るよ」
そういうと、ドラえもんは、ポケットから瓶を取り出した。
〈変身ドリンク〉
ドラえもんはそれを飲むと、ジャイアンの母ちゃんに変身した。
そしてドラえもんは叫んだ。
「武!!いいかげんにしな!そんなことばっかりしてると……承知しないよ!!」
しかし、それは何の効果もなかった。一瞬、ひるんだようにも見えたが、何も変わる様子はない。
「ダメか……」
一体どうすればよいのか、みんなは悩んだ。
「ジャイ子ちゃんは?」
しずちゃんが言った。果たして今度は上手くいくのだろうか。
今度はしずちゃんがジャイ子に変身した。
しかし、これも効果がなかったようだ。
そしてそのまま1時間が経過した。
すでに体力の限界だ。
事態は何も進展していない。
ジャイアンの洗脳を解く方法も思いつかない。
みんなは全身ボロボロになり、もうダメなのかと、そう思い始めていた。
「ダメな訳ない」
出木杉はそうつぶやいた。
みんなが出木杉を見る。
「武君だってされたくて洗脳されたわけじゃないんだ。武君本人ももちろん嫌がっているだろう。絶対元に戻りたいと考えているはず」
そしてスネ夫があることに気づいた。
「ジャイアンが涙を流している!」
みんなは驚いてジャイアンを見た。
本当だ。ジャイアンの目からは涙があふれている。耳をすますと、時折「ウッ……ウゥッ」と、泣き声も聞こえてくる。
全員が希望をもった。ジャイアンは、必ず元に戻る、と。
そして顔を見合わせ、うなずいた。
そのあと、口々にジャイアンをほめ始めたのだ。
実に単純な方法である。しかし、みんなはこれが一番効果があると考えたのだ。
ほめたあと、今度は、ジャイアンとの思い出を、語り始めた。
殴られたこと、仕返ししたこと、助けたこと、助けられたこと……。
ジャイアンが流す涙の量は確実に増えている。確かに効果はあったのだ。
そして最後に、ジャイアンに近づいていったのだ。
ジャイアンはもう襲っては来なかった。
そして最後に、ドラ達5人で叫んだ。
「早くいつものジャイアンに戻って!」
ジャイアンが倒れた。
それから数分が経過した。皆はトラックの中にいる。
ジャイアンが目を覚ました。
全員に緊張が走る。
ジャイアンの目は普段の、彼の目であった。
そう、ジャイアンの洗脳は解けたのだ。
「うぅ……」
「ジャイアン!!」
のび太が呼びかける。
「俺は……今まで……とても……」
ジャイアンが何か言いたそうだ。どうやら洗脳されている間の記憶があるらしい。
「うおぉぉぉーーっ!!」
ジャイアンは嘆いた。
「気にすることはないよ、ジャイアン」
ドラえもんが言った。
「そうよ、武さん、洗脳されていたんだもの」
しばらくして、ジャイアンが落ち着きを取り戻した。
そして彼は語り始めた。
……つれて行かれてから洗脳されるときまでのことを。
全員が彼の話を、一言も聞き漏らさずに聞いていた。
そして、彼の話で、新たにわかったことがいくつかあった。
ディルヴィアスに助言をしている人物が存在すること、そしてその人物の声を、彼は何処かで聞いたことがある、ということ。
……何処かで聞いたことがある……
「一体何処で!?」
ドラえもんが聞いた。
「思い出せねぇんだよ、それが。ただどっかで聞いたことがあるのは、確かなんだよ」
何はともあれ、ジャイアンを助けることに成功した。次はディルヴィアスからこの星を解放し、地球を救わねばならない。
「いよいよディルヴィアスとの戦いだね」
ドラえもんが言った。
「あんにゃろー、俺を洗脳しやがった礼をたっぷりしてやるぜ」
ジャイアンは張り切っている。
「ディル婆さんがなんだ、ギッタギタにしてやる」
「ジャイアン、ディルヴィアスだよ」
スネ夫がつっこみを入れる。
ジャイアンが少し赤くなった。敵の名を間違えたりするのはいつものことだが。
「んじゃこれから、そいつを倒すわけだから、その前祝いでもしとこうか。そこで……」
みんなはいやな予感がした。フィルアスやコミアン、ヴァラフォヌスやリルルは気づいていないが。
ジャイアンの顔が活気にあふれている。
「これから、臨時の……」
ドラ達5人は最悪の言葉が出てくることを恐れた。そして、その「最悪の言葉」を、ジャイアンは口にした。
「スーパージャイアンリサイタルを開こうと思う!」

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