ドラウタ


第一話【開幕】


「おい!のび太!しっかりしろ!」
爆音が鳴り響く中、僕を呼んでくれる人がいた。
「まだ終われないんだろ!お前の夢はその程度だったのか!?」
激しく叱咤される。だが、僕にはもう返事をする力すらない・・・。
  

どうして、こうなってしまったんだろう・・・。
平和な日々は?どこに消えた?いつからこんなことに?
僕は空になりかけた心のなかを探した。
何か大切なものを、忘れている気がするから・・・・。


―――その日の朝。


「のび太君!おきて!遅刻するよ!中学生がそんなことでいいの?」
ふと顔を上げる。見慣れた顔がそこにはあった。
「ドラえもん・・・。」
ドラえもん。ちょっとした理由で、僕のところにいる。ドラ焼きが好きらしい。
「ちょっと待ってよ・・・もうすこし寝るから・・・」
また布団に潜り込もうとする僕を、ドラえもんは呼び止める。
「友達が来てるよ。待たせたらだめだよ!」
「友達・・・・・?」
「友達!だから早く急いで!ほら!」
僕に友達なんていたかな?と思いつつ、ドラえもんにいわれるがまま着替え、朝食は食べずに待っているという友達の元へと走っていった。
「遅いぞ。人をどれだけ待たせれば気が済むんだ?」
「あ、大助君か!」
薬屋大助。中学生になってから、僕と仲が良くなった人だ。
社交的で、こんな僕とも仲良く接してくれた。家も近いし、仲良くなるのはさほど難しいことではなかった。
「そ、大助だよ。悪かったな大助で。」
「わ、悪くなんかないって!」
「そーか?どうせ、静香ちゃんでも来てるのかなーって思ってたんだろ?」
「お、思ってないよ!もう、早く学校行こうよ!」
「おー、そうかそうか。友達待たせといて早く行こうって?いいぜ、競争だ!負けたら帰りジュースおごれよ!」
そういって彼は駆け出した。
「ちょ、ちょっと!卑怯だよ!・・・もう!」
のび太も後に続く。
―――平和になったなぁ・・・。
僕は、何かしらそう思った。どうしてそう思ったのかわからない。わからないけど、そう思わずにはいわれなかった。自分の中での平和は、こういったことだったのかもしれない。
友達がいて、家族がいて、ドラえもんがいて・・・・。
皆いる。こんな幸せな日々が、延々と続いてくれればいいと思った。
このとき僕は、こんな日々が消えてしまうなんて思ってもいなかった・・・。


―のび太が去った後、ドラえもん―
「ええ、はい。わかりました。」
電話を切る。
一息ついて、
「ごめんのび太君・・・・。ボクは・・・・。」
ドラえもんはそういい、部屋を去った。
二度と帰ってこれないかもしれないといわんばかりに、1歩1歩ゆっくりと・・・。


キーンコーンカーンコーン。

「はぁ・・・はぁ・・・やったぜ・・・。のび太、約束通り、ジュースおごれよな。」
学校についたころには、大助が勝ち誇ったような笑みで玄関の前に立っていた。
「卑怯じゃないか!いきなり走り出すなんてさ!まあ、ジュースくらいならいいけど・・・」
「よし!決まりだな!楽しみにしてるぜ!」
そういい、彼は校内へと消えていった。
「ちょっと・・・・おいてかないでよ!」
僕も後に続く。
この学校は、蘭欧(らんおう)中学校という、去年できたばかりの中学校だ。
僕と大助君はここでであった。
でも、昔から仲が良かった彼らは・・・・・。
「気にしてちゃだめだ・・・・・。僕はもう、後戻りなんて――」
「ん?どうしたのび。ホームルームに遅れるぞ?」
立ち止まっていた僕を見て心配だったんだろう。担任の樋口先生が話しかけてきた。
「・・・大丈夫です。今行きますから」
「ああ、それならいいけどな・・・。」
僕を一瞥し、樋口先生は教室に入っていった。
僕も教室に入る。皆はもう座ってる。僕もすぐに座り、ホームルームは始まった。
「今日は、午前授業だけで終わりだ。帰ってからは、外に出てはいけないぞ。」
皆の空気が凍る。それはそうだろう、午前授業だけで終わるということは・・・・。
「先生、また“蛇”ですか?」
“蛇”という語句に皆の空気がさらに凍る。
――――蛇。
世間の間ではそう呼ばれ、数年前に突如として現れた謎の存在である。人の魂を奪うものとされているが、本当かどうかはわからない。それらは世間ではうわさの範疇にとどまっているが、目撃証言が多く、その存在はもはや暗黙の了解といっていいほどだ。
とても歪で恐ろしいことから、人からは畏怖の対象として見られている。
僕だってそんな化け物とは関わりたくないし、関わろうともしたくない。
「なあ、のび太?」
ふと声がしたので横を見る。
「どうしたの?大助君。」
「いや、お前、蛇は嫌いか?」
「嫌いも何も、化け物なんでしょ?そんなものと関わりたくなんかないよ。大助君だってそうでしょ?」
「・・・ああ・・・・」
そういったきり、彼は黙り込んでしまった。
 

そのご、午前の授業が終わり、帰ることとなった。
「大助君、一緒に帰ろうよ!」
「いや・・・俺はしなくちゃいけないことあるから、帰っててくれ。大丈夫。ジュースはまた今度おごってもらうからさ。」
「・・・・そう?わかった。じゃーね」
そういい、僕は教室をでて帰路につく、振りをした。
「たまには大助君がなにをしてるかくらい、みてもいいよね・・・。」
ちょっとした好奇心だったのだろう。そのころは、彼ばかり僕のところにきて、彼のところにはいったこともなかったのだ。いきたいといっても「どうせ面白くないからさ」
と笑い飛ばすばかり。どうしてだろうと思う日々があった。
でも今日、これではっきりするだろう。大助君がどんな人なのか、これでよくわかるはずだ。


これが、悪夢の幕開けになるとも知らずに・・・・。


数十分後、大助君は出てきた。僕は気づかれないように後をついて行く。
「はぁ・・・・また00かよ・・・・・・・」
大助君がまた何かつぶやいた。あの様子だと、すこしおこってるみたいだ。
「・・・・ここらへんが目撃情報があったところか・・・。」
「ぇ・・・・・」
眼前の光景をみて、僕は息をのんだ。
そこは元は公園だったのだろう。折れ曲がった滑り台、胴体と千切れているブランコ、上半身が吹き飛んでいる銅像、そして地面にはところどころ大きな穴が・・・。
「・・・・・これは確かにひどいな、2強ってところか・・・」
大助君が何を言っているのか分からない。僕は何も考えることができなかった。
こんな光景を見てどうして大助君は平然としてられるのだろう?
立ち尽くしていると、おくから誰かやってきた。
「・・・・・・・・」
「おい、こんなことをしたのはお前か?」
「うん、そうだよ。君たちをよぶ餌としてね・・・。」
「君たちだと?どういうことだ!」
「後ろを見てみるといいよ」
「・・・・!」
大助君が僕を見つめてきた。振り返ったら仲のいい友達がいたのだろう。無理もない。
でも僕は、それよりも驚くことがあった。大助君の奥にいる人が・・・。
「・・・ドラえもん・・・・」
そう、ドラえもんだったのだ。
どうしてここに?こんなことをドラえもんがやった?餌?どういうことだろう・・・。
「おい、そこの青タヌキ!のび太をこの戦いに巻き込むつもりか!?」
「青タヌキって失礼じゃないかな?ボクにはちゃんと名前だってあるんだしさ」
「敵を名前で呼ぶ必要なんてあるか?」
「確かに、ないね。あと残念だ。ボクは君になんて用はない。のび太君に用があるんだから。そこをどいてよ」
僕に用がある?どういうことだろう?家でいってくれればよかったのに。
「どかねえよ、友達を俺達と一緒にはさせない・・・・こい!」
大助君が叫んだ。その途端、大助君の体に蛇のような光が突き刺さり、それが全身を駆け巡り、大助君は黄金の輝きに包まれた。
「なん・・・・なんだ・・・・これは・・・・」
「へえ、蛇と一体化できるタイプか。面白いかもね。でも、ボクも強いよ?」
一方ドラえもんの周りが、急に暗くなった。ドラえもんの全身から闇に似たものが吹き出てくる。
「は、特殊ごときが、同体に勝てると思ってるのか?」
僕は誰が何を言ってるのかよくわからなかった。言葉の意味も分からなかったし、分かろうともしなかった。でも、僕は、そう。
見とれていたのだ。2人に。光と闇。照らすものと隠すもの。その綺麗な姿に・・・。
「行くぜ青ダヌキ!あとでないて許しを請おうったってそうはいかねぇぞ!」
「それはボクのセリフだよ!」
かくして、二人の激闘が始まった。


「うおおおおおおおお!」
「うあああああああ!」
光と闇が激突する。
光の方は指先から光弾を飛ばしている。闇はそれを包み込み、黒化させて弾き返す。
「うおおおお!」
いきなり大助君が跳躍した。人間のものとは思えない速度であっという間にドラえもんの真上にとび、そこから地面に向かって拳を叩きつける。目ではおえない早さだが、
「あまいよ!ボクの戦闘経験をなめてもらっちゃ困るからね!」
ドラえもんもすごい速度でその攻撃を避けた。
「ちっ・・・・」
「さあ、早くのび太君と話させてもらえないかな?」
「断る!」
「・・・・・ぁ・・・・・・・・あぁ・・・」
僕の周囲はもう焼け野原だし、僕のまわりも穴だらけだった。
でも、構わない。この姿をもうすこしでも目に焼き付けておきたい。
そして、僕は願った。
「・・・・この2人みたいに・・・戦ってみたいな・・・・。」
するとその瞬間。視界がブレた。
「ちっ、“蛇”が降臨してしまう!」
「よし、これでボクの使命は終わりだね・・。」
「おい、待て青ダヌキ!俺との決着は―――――」
「君との決着の前に、のび太君を助けてあげなくていいの?暴走して、堕落人になっても知らないよ?」
「ちっ・・・・」
「それと最後に、ボクと決着をつけたいなら、あの山に来てよって。のび太君ならわかるだろうから。そこに彼らもいる。ってね。じゃ」
そういい残し、青ダヌ・・・ドラえもんは去っていった。
「あっ・・・・そうだのび太!」
誰かが駆け寄ってきた。
「おい!のび太!お前いったい何を願った!何を願ったんだ!」
急速に意識が失われていく、僕はもう、だめなんだろうか?
「この光は・・。ちっ、同体型か、俺と同じ癖のある夢を願ったんだろ!おい!しっかりしろ!」
大助君が何を言ってるのか理解できない。頭が働いていないのか、理解の範疇を超えているのか。彼が必死になって、どうして僕に語りかけてくるんだろう。眠気がしてきた。休ませてくれてもいいじゃないか・・・。
「ちっ・・・このままじゃ堕落人に・・・・」
すると遠くから、巨大な砲撃音のような音がした。
「執行者、No,2スネオ。ドラえもんの意向が変わった。暴走もせず、このまま勝手に堕落していくのび太を、これより殲滅する。貴様、どけ。楽にしてやりたいんだ。のび太を。」
「嘘つけ!誰だお前!のび太がなんだよ!どうして皆のび太に関わる!」
あの顔には見覚えがある・・・。確か、自慢ばかりするやつだったような・・・・。
それに、目がひどく濁っている。黒く、闇にとり憑かれているかのように。
「そうはさせないわ!」
一瞬、時間が止まった。
そして次の瞬間、スネオの周りが炎で埋め尽くされる
「くっ・・・」
「静香・・・」
それは間違いなく静香ちゃんだった。
静香ちゃんは手に杖をもっている。そこから炎がでているのだろうと、動かない頭で考える。
「大助君!はやくのび太さんを!」
「・・・ああ」
「思わぬ邪魔が入ったな。仕方ない、ここは全力でいこうか。」
途端、スネオの周りの炎が吹き消された。
風。とでもいっておこうか。突風じみた風が炎を吹き消し、槍となって襲い掛かる。
地面がえぐれ、あらゆる生命が吹き飛ぶ。
「くっ・・・・」
静香ちゃんが吹き飛ばされる。
「ちっ・・・。おい静香!大丈夫か!」
「・・・いいから!はやくのび太さんを!」


―そして今に至る
「ああ、わかってるさ!おい!のび太!しっかりしろ!」
爆音が鳴り響く中、僕を呼んでくれる人がいた。
「まだ終われないんだろ!お前の夢はその程度だったのか!?」
激しく叱咤される。だが、僕にはもう返事をする力すらない・・・。
大切な何かが、こぼれ落ちていく、そんな感じがしている。
「おい!夢をもったんだろ!じゃあ諦めるなよ!こんなことで終わる夢は夢じゃない!」
だめだ、僕は・・・。もう君の名前も思い出せないし、どんな夢を持ったのかもきえそうだ・・・・。もう、僕は死ぬのかもしれない。感覚で分かるんだ。最後の一握りの想いが消えたら、僕は死ぬと。
「男なら、最後まで戦えよ!逃げるのか?今までつらい思いをしなかったから、こういうところからさっさと逃げ出すってのか?甘ったれるんじゃねえよ!今終わっても、何の意味もないんだぞ!お前の人生、そんなことでいいのかよ!」
いいわけがない、とはいいきれない。
これでいいのかもしれない。もう、疲れたから。僕は幸せだったんだ。だからもう、眠らせてよ。これ以上の辛いことなんて、いやだよ。
「・・・この野郎!さっさと目ぇ覚ましやがれ!何度いったらわかるんだ!あぁ?今はまだ眠るときじゃねえんだよ!自分が願った夢を思い出せ!」
夢・・・・。そうだね、死ぬ前に思い出してみようかな・・・。
「・・・・・・」
この青いのは何だろう?ドラえもん?・・・・なんだろう、この感覚。
君は・・・・・・誰だろう?大助?・・・・何かを忘れている・・・。
「おい!お前はまだ戦えるだろ!ほら、たてよ!さっさと立って青ダヌキのところに行って決着をつけるぞ!」
戦い・・・・戦い?
そうだ、確か僕は、君と青いのとの戦いを見て・・・・・・。
「あ・・・・・」
全て思い出した。体に力がみなぎってくる・・・。
「思い出したか。よかった。よし、後はスネオとかいうやつを――――」
「・・・うんだ・・・」
夢を思い出した。この夢を人に語ったら、笑い飛ばされるかもしれない。
「ん?どうした?」
「・・・・・戦うんだ・・・・」
大助君にいったら、怒られるかもしれない。だってこの夢は、願ってはいけない夢だったから。
「・・・・おいのび太。大丈夫か?」
「僕は・・・・・君と・・・・・」
それでも、この願いは果たさなくてはいけない。
――おい!夢をもったんだろ!じゃあ諦めるなよ!こんなことで終わる夢は夢じゃない!
確かにその通りだ。諦めてはいけない。
――男なら、最後まで戦えよ!逃げるのか?今までつらい思いをしなかったから、こういうところからさっさと逃げ出すってのか?甘ったれるんじゃねえよ!今終わっても、何の意味もないんだぞ!お前の人生、そんなことでいいのかよ!
そう、そうだ。いいわけがない。
だから僕は今、思うようにする。そして戦った後、もう一度友達に戻ればいい。
そう、僕の夢は。
「僕は・・・・・・・大助君と全力で戦いたい!」
「なっ・・・・。」
突如、僕の体が橙色の輝きに包まれた・・・・。


1話開幕終了

2話対峙は機会を見て。


第二話【対峙】

 


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