〔第一話〕
 荒れ果てた剥き出しの地面。積み重ねられた廃材の下水管がバブルの面影を感じさせる。どこにでもある閑居な住宅街のあまりに実在的な空き地。唯一つを除いては。何かを待っているかのように立ち尽くす一人の少年。そして彼の足下に倒れる元・友人達。朱い化粧で染められたその光景はいつものニチジョウとは明らかに違っていた。そこで唯一匹のイキモノである少年の手に握られていたものはこのセカイの物ではなかった。兵器と呼ぶように残虐には見えず,むしろその幼稚にも思えるフォルムは玩具のような印象を受けるかもしれない。違う,これは道具なのだ。人を傷付けるためでも遊戯を目的としたものでもない。「使う」というレゾン・デートルの下に創られただけの単純なドウグ…。

  「ボクガヤッタンダ…」
少年は優越感と達成感,そして自分の中に秘められていた狂気に対する恐怖感の入り交じったような言葉を呟いた。持ち主の身体を離れ,その存在価値を失った血液は少年の顔からまるで涙のように滴っている。少年は眼鏡を外し冷酷にそのナミダを白いハンカチで拭った。ハンカチ?いやそれは半月状の白い布袋で,また「何か」の目的を持った異世界の道具なのだ。彼は握り締めていた彼の友人の命を喰らった道具をその布袋に押し込めた。無限のキャパシティを持つその布袋は当然のように道具をしまい込む。それはすべての道具の「器」となるもので,違うセカイへの穴(ポケット)なのだ。少年はポケットに手を肘まで突っ込み,弄るように手を動かす。その手はまた一つのドウグを掴み取りコチラのセカイに引き出した。

  キミがやって来てボクはナニガカワッタのだろうか?キミは突然やってきた。キミは不思議なチカラを持っていた。キミはそのチカラをボクのために使ってくれた…。チカラ。キミのチカラ?ボクのために?チガウよ…。キミはいつだってその場凌ぎの姑息なチカラしか貸してくれなかったじゃないか。ボクはいつも疎んでいたんだ。このセカイを…。でもそれはボクのニチジョウ…。「あの日」ニチジョウにキミのチカラが加わった。それでも毎日のように繰り返されるボクのニチジョウのサイクル。ボクは飽きてしまっていた。キミは気付いていなかったのかい?この世界がループとなっているコトに。決して止まる事のない錆びついた車輪。その廻転によって迸る,赤く,熱い,鮮麗な火花でボクの身体は焼き爛れる。でもいつかはその車輪そのものがコワレテシマウって,ボクは知っていた。止めなくちゃ。このループを…。そのために……ボクはキミのチカラを奪った…。

  これは罪悪感なのか?キミのチカラを奪い,愛すべき友人を殺した。ボクが憎んだニチジョウのサイクルは一瞬で脆くも崩れ去った。これはワルイコトなんて事はいくら頭の弱いボクにも分かったさ。でも『今を変えなきゃ未来はやって来ない』ってミスチルの歌詞にもあっただろ?あれ?スピッツだったっけ?ボクには今まで勇気が足らなかったんだ。ユウキなんて都合のいい言葉で片付かないなんて言うなよ。キミだってスキナ娘に告るトキにも,テストでカンニングするトキにもユウキに飢えるだろ?ソレと一緒だって。ボクはチカラを手に入れた。セカイだって統べられるチカラだ。こんなキタナイセカイなんて欲しくないけど,今ボクが生きたいと思える小さなセカイくらい作ってもいいんじゃないのか?


  時空座標を確認。home設定時間に到達。エリア《main computer room》にジャンプ。トリップを終了―――
  「独立思考型自律機動汎用道具ver7.1シリアルナンバーDC/017739識別呼称『DORAEMON』…」
『情報認証完了。コマンド《communication》を発動します―――』
「お早う御座いますmother。ミッションは完了致しました。結果は御覧になられましたか?」
『はイ。さすがデスネ,ドラえもん。コレで我々の世界が支配を広げるコトも確実デショウ。アナタの眼から見て彼の《使用者》としての実力はドレ程なのデスカ?』
「彼は《ループ》により永遠の小学5年生を繰り返し,彼の倫理観は人間のソレを超越しています。現在の人間の心理把握プログラムでは予測不可能の領域までに。しかし彼が世界の《支配》を始める確率は100%と演算されましたので,ここに仕った所存に御座います。」
『宜しい。アナタはヨク働いてクレましタ。褒美を差し上げまショウ。まずアナタのAIシステムの複製(コピー)を大量生産し,自律機動型CPUの標準規格としまショウ。さらにアナタには,最新版の感覚プログラムソフトウェアをインストールして差し上げマス。コレを使えば快感というモノをただの刺激として経験するのではなく,依存性や興奮を伴った,極めて人間と近いようなカタチで感じトルことがデキマス。そして今後はコノ様な主記憶装置に多量の負荷がかかるミッションにはつけず,道具開発局にて優良AIのモデルとして開発に携わってもらいマショウカ。』
「ふっ,motherも人が悪い…。開発局で働くといっても,所詮は実験道具にされるって事でしょう?まぁ,いいですよ。motherの考えなのですから。それと快感プログラムのインストールは遠慮させてもらいますね。快感を追い求める事にしか生きる意味を見出だせない人間のようにはなりたくはありませんから。それでは御命令通り開発局に向かいますので…。」
『communication終了。mother待機モードに入ります―――。』


  彼の取り出したドウグは,そこに横たわるかつて彼と生きた三つの亡骸を一瞬にして消し去った。彼の『町』と共に…。セカイと呼ぶには空虚過ぎる,果てしなく白い空間。そこに一人立つセカイを欲した少年には犯した罪に泣く事も,得たそのチカラを楽しむ事も赦されなかった。ただ一つ,彼がするべき事はアタラシイセカイを創るコト…。

  ダレモが欲しがるユメのチカラ…。それを僕は手に入れたんだ…。ポケットに吐き溜める自分の欲望。そして,それを叶える数多のドウグ。僕はこの「空白」を創った道具の名前も知らない。いつも大声でドウグの名前を教えてくれたキミはもういない。欲望のリミッターとなってくれていたキミは…。…でもこれはギムなんだ。汚れたセカイを書き直してリライターとなる,そのためのチカラだ!ボクは描く!新世界(ニューワールド)という名のフレスコを!


 〜とぅびぃこんてにぅど〜

 

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