悪魔のナイフ


プロローグ

―地獄の世界―

「のび太君か?」

鈍痛がする中、僕は答えた。

「ああ、そうです。」
「君はどこから来たのだ?」

地獄にしては
妙な質問だけど、答えた。

「戦場からなんです。閃光が目を切り裂いたら、気がついたら此処に。」
「そうか、しかし君にはやり残している事が一つある。」

こんな痛い経験をした後で、
地上に戻るのは真っ平ゴメンだけど、一応、聞いてみた。

「それは、何ですか?」
「“ドラえもん”への復讐だ。」

何だって…。いくらなんでもそれは出来ない。
たとえドラえもんが僕を殺してもドラえもんをを殺せはしない。

「君はドラえもんに殺されて此処に来たのだろう。」
「確かに、それは事実ですが……」

確かに、ドラえもんが僕の爆撃機を銃撃したのは事実無根の出来事だ。
でも、あれは事故だったんだ。絶対、事故だった。

「僕は友達を殺せません。」
「じゃあこういう事にしよう。」

唾をゴクリと飲み込み、耳を傾けた。

「君を一度だけ生かしてやる。その代わり、ドラえもんを殺せ。
ドラえもんを殺せば、君は永遠の命と名誉をやろう。どうだ、引き受けないか?」

永遠の命と…名誉が。本当に手に入るのか?
……生きたい。思い浮かんだのはそれだけだった。

「引き受けましょう。」
「よろしい。地上に行く前にこれを受け取れ。」

いつの間にか、手にはナイフを握っていた。
柄には悪魔と炎の形が刻まれていた、刃先はギラギラと光っていた。

「それでは、地上へワープするぞ。」
「はい。」

瞳には悪魔の姿が歪んで映っていた。
そして一瞬の内に灰色の空と干乾びた地が広がっていた。

野比のび太 21歳の夏だった。


第1章「涙」

「やっと戻ってきた…」

地獄での1日は、こっちの1ヶ月になるそうだ。
それもそのハズ、今、僕が居る町は、人の波で混雑している。
アスファルトは抉れ、ある1軒は、焦げ目があり、
隣の1軒は、何ヶ所か、屋根の瓦が取れている所がある。
まだこの辺は空襲の被害を受けていないようだ。
何故分かるかって?それはね……、
今、頭上に爆撃機が飛んでいる。さぁ、アイツのお出ましさ。

「―のび太君、悪く思わないでくれ。」
「ドラえもん、君に聞きたい事があるんだけど。」
「何だい?」
「1ヶ月前の出来事についてだ、教えて欲しいんだ。」

僕達はわざと慣れた口調で言葉を交わし続けた。
分かってんだ、答えなんて。だが本当の真実が欲しかった。
さぁ答えてくれ、ドラえもん。

「あれは…僕がやったんだ。」
「ほぅ、やはりそうか。」
「しかし、1つだけ信じてくれ。」
「何だい?」
「あれは僕の意思ではない。」

ウソだろ…。じゃあ誰がやったんだ。
悪魔の囁きとでも云うのか?そんなの馬鹿げてる。

「ウソだろ…ウソと言ってくれ。」
「違う!」
「ドラえもん!!」
「…何だよ。」

僕は地獄であった悪魔の事を忘れていた。
命、名誉…そんな物はもうどうでもよかった。
しかし、これまでに無い怒りがこみ上げてきたんだ。

「うわあああああ!」

ナイフの刃がギラリと光り、
絵の悪魔の瞳が赤く燃え滾るように光った。

スカッ……

「のび太君…」
「やっぱり、君は殺れない!!」

これ以上無い怒りがこみ上げてきたのに、
何故だ、体が自然に右に傾いた。
普通、絶対に傾かない。絶対にドラえもんの目を逸らさなかったのに。
分からない。自分の本心なのか?それともドラえもんが避けたのか?
そんな事を思いながらも、僕はナイフを落とした。
ナイフに、1粒の涙が流れ落ちた…それは僕のものだった。

第2章に続く―
 


第2章「影」

やはり、無理だった。
君を殺す事なんて……。

「ふ、ふふふふふ。バカだなぁ。君っていう奴は。」
「何!?」

ドラえもんの口から、意外な言葉が出てきた。
さっきまで穏やかだったドラえもんの態度が変わった。

「のび太君、一つ教えてやろう。」
「……。」
「世の中で力を握るものは誰だと思う?」
「それは―。」
「それは、ずる賢い奴さ!相手を騙し、自分の利益にする、ずるい奴さ!!」
「違う!!」
「何だとと?」
「!!」

今、一瞬、声が被った!!
そうか、ドラえもんは悪魔に洗脳されている!
僕は、剣の先をドラえもんに向け、10m程先の地面に投げつけた。
すると、地面から奴の悲鳴が聞こえた。

「やはり、お前がドラえもんを……。」
「バレたら仕方が無い。それとお前、よくも裏切ったな!!」
「うるさい!ドラえもんに恨みでもあるのか?」
「ああ、そうだとも!」
「なら僕は……ドラえもんを守る!」

僕は、ドラえもんを連れ、一緒に爆撃機に乗り込んだ。
何故か、君だけは守りたい。そんな気持ちで、いっぱいになった。

ゴゴゴゴゴ―――

悪魔の影が、ちりぢりになり、とうとう消えた。
この影が、いつか晴れるように―。そんな事を考えていた。

「君、誰?」
「えっ、どうしたの?ドラえもん。」
「僕は、誰なの?」

―その夜―

カタッカタッ―
キーボードを動かす微かな音が聞こえる。

「今から解析を始めよう。フリント君。」
「そうしてくれ。野比教授。」

星はいつか燃え尽きて消えるもの。
野比教授、そろそろあんたもお終いだ。
この悪名高きフリントが、消してやる……。

第3章に続く―


第三章「意」

気温は存在しない。
血と骨の腐った匂いがする。

ここは地獄だ。

閻魔帳を広げ、寿命になった人間を書き込むだけ。
たったそれだけの作業で人を奈落へ落とす。
単調で退屈な仕事をしている人物。閻魔大王だ。

「フリント。地獄(こちら)に帰って来い。命令だ」

大王は数人かの手下を持っている。
人を地獄へ呼ぶ時は、いつも手下を使う。

部屋に大穴が出来たと思ったら、
例のフリントが出てきた。

空事では普通、閻魔大王の手下といえば、
悪魔か鬼が一般的だが、今はそうではない。

他人に気付かれない為、亡者を蘇生させ、
人間の本能を植え付けて、使が出来る。

フリントは若い青年だった。
だが、ある人物に薬を進められ、人生は変わった。
それが、毒薬だった事をしらずに服用し、
家族揃って早くして死んでしまったという。

「何か御用を。」
「そうだな。ではこの任務を与えよう。」
「どういう任務でしょうか?」

「お前の殺したい人物を殺せ。」
「!?」
「但し、やり過ぎるなよ。」
「私の夢を聞き入ってくれたという事ですか?」
「お前は只、任務を遂行していればいい。亡者の掟だ。」
「分かりました。すぐに取り掛かりましょう。」
「頼むぞ。」

フリントの頭は殺意で埋め尽くされていた。
長い長いトンネルを抜けると、彼の悔いが晴らされるのだから。

「殺す奴は只一つ。」

「野比一家だ。」

第4章に続く―


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