ことの始まりは、5ヶ月前だった。

駅前の広場には色々な人々が行き交っている。
そしていつも同じような風景をつくっている。
何の変哲も無く、普通で、ありきたりで、退屈な。
その普通さが、最も良いのだが。
だけど、普通のままの日だけとは、あり得ないのだ。時には違う日もある。
その日が、その違う日だった。

第一章「駅前での不可思議現象 上」

この駅の前には噴水がある。それは、駅前にしては豪華な、大理石で出来ている。
円形で、真ん中の岩の上に天使が4人いて、その天使の持っている瓶から、水が噴き出している。
さらに天使の上にはこれまた綺麗な人魚がいて、壺を両手に持ち、それを空にかかげている。
良く手入れされているのか、太陽の光に反射して、きらきら輝いている。
これが目当てでここに訪れる人もいるくらいだ。
が、その噴水の水に、男がダイブした。水が飛び散る音がする。少し遅れて、地面に当たる音。
道行く人が驚いて立ち止まり、輪をつくる。
その中心には、2人の男がいる。
なにが起こっているのか。

「ごめんなさぁい!」
噴水からはい出てきた男(噴水にダイブした、てか落とされた)が叫んだ。
野比のび太。15歳。身長は160ちょい、ぼさぼさの髪、優顔、貧弱そうな身体、そして眼鏡。
黄色い長袖、紺色の長ズボン、黒いコート。
「てっっっっっっっめぇぇぇぇぇ!謝りゃゆっされっと思ってんのかコラァ!てめぇのせーで彼女への土産物が
ぐしゃぐしゃになっちまっただろぉがぁ!!どうしてくれんだあ、オイ!」
「弁償しますよ!」
「あったりまえだ」

まあ、こんなことが起こってるのだ。
ようするに、喧嘩(それも、かなり一方的な)だ。
原因はどうやらのび太が走っていて、石につまずくという、あり得ないことをし、こけてしまった。
それが運悪く、この怖い兄さんにぶつかり、持っていた物(どうやら彼女への贈り物らしいが)が、落ちてしまった。さらに悪いことに、謝ろうとして立ち上がったらその贈り物を踏んでしまったという。いかにも漫画や小説ではありきたりすぎる喧嘩の始まりで、もはや誰も笑わないであろう偶然で、こうなってしまったらしい。

「ちっ。今度から気ィつけろや!次はこれですむと思うなよ」
そう言って、男は、再度土産物を買いに行った。
男が見えなくなると、のび太はその場にへなへなと座り込み、大きくため息をついた。
周りからくすくすという声が聞こえる。
のび太ははっと自分が急いでいた事を思い出し、立ち上がった。そして、走り出そうとした。
と、さっきの男がそのままのぐしゃぐしゃになった土産物が目に入った。
ふっと笑い、のび太はそれを拾い上げ、辺りを見る。誰も見ていないようだ。

のび太の手のひらが光った。
 

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