未来への道筋


 二十世紀の半ばを境に人類は未曾有の科学発展を遂げた。人類の主要エネルギーはすでに石油から電気に移行し、それに伴う電子工学の分野が爆発的な進展を見せた。

・2062年、日本の博士、篠宮正二が「完全な人工知能」を開発。 
・2067年、イギリスの博士、ジョージ・ステイパーが「限りなく人間に近い体」を発明。
・2070年、篠宮とステイパーを中心とした世界中の博士たちによる「ロボット開発機構」が設立。
・2073年、限りなく人間に近いロボット、「ヒューマン」初号機開発。しかし失敗。
・2076年、「ヒューマン」二号機開発。(後に「ピース」と改名)
・2078年、労働用ロボットとして大量生産、実用化。その後多種多様なロボットが開発、実用化。
・2089年、アメリカの学者、デニー・クリスファー、軍事用ロボット「スナイプ」開発。
・2090年、イギリス「アンドール」、フランス「スーギル」、中国「闘李」などの軍事用ロボットを開発。その後も各地で多種多様な軍事用ロボットが開発される。
・2091年、日本の篠宮亮助、自衛用ロボット「国守」を開発。それと同時に防衛用人工知能「S・R」開発。
・2096年、より精密になってゆくロボットを見て、アメリカの大統領が「もはやロボットは人間よりも人間らしい」と発言。
・2098年、中国で李・管明によるクーデターが起こり、独裁政権がひかれる。
・2099年、中国のモンゴル侵攻、それに伴い世界各地が紛争状態に陥る「第三次世界大戦」勃発。
・2100年、アメリカの学者、ゲレット・D・エドモンドが「ロボットと人間の共生」を提唱。
・2101年、日本の学者、紫藤一人が「タイムマシン」を発明。


――タイムマシン発明――その衝撃的な報せは電子ケーブルを通じて世界各地に走った。
 開発したのは日本の若き天才、紫藤一人。
 日本は大戦には直接的には関わってはいないものの、今まで戦時下の各国メディアが日本に集まってきた事はほとんど無かった。
 未曾有の大発明に、とかく沈みがちだった国内は沸き立った。誰もが時空を旅するという未知の領域に思いを馳せた。しかし政府関係者及び、各国首脳はこれを重大な脅威とみなした。タイムマシンを駆使すれば過去に行く事で自分にとって都合の悪いありとあらゆるものを消す事が可能だからだ。日本政府は紫藤博士にタイムマシンの研究成果及びその実物を政府に譲渡するように通告、紫藤本人の身柄は政府内の某施設で隔離する事を決定した。一方各国首脳も最強の兵器となりうるタイムマシンの実物と資料、あるいは紫藤本人の身柄を確保するのに血眼になった。
 しかし両者の思惑は外れる事になる。紫藤博士は莫大な資料と共に姿をくらましたのだ。

「未来は変えられるものではない」

紫藤はそう、以前メディアの「タイムマシンを使えば未来をすばらしいものにできるのじゃありませんか?」という問いかけに対して答えた。
 図らずもこのタイムマシン開発が日本の参戦の発端となった。



 突然鳴り響いた出撃を知らせるサイレンの音に野比和義は跳ね起きた。
『第一、第二、第三部隊は速やかに準備を終え、中央に集合せよ!』
 放送を聞いて和義はひとまず案慮した。和義が所属する部隊は狙撃専門の「第四部隊」だ。物陰からこそこそと敵を撃つような真似をするのを潔ぎよしとしないものは、第四部隊にいる人間を馬鹿にしたりもする。しかし第四部隊は事実上、和義のいるC地区においては間違いなくダントツの戦果を挙げている。
 和義も以前、重量感のある無機質な銃を敵に向けたときは腕が震えたが、今はもう、そういうことはない。これといった長所はない和義だったが、祖父の血をひいたのか、狙撃の腕前は凄腕ぞろいの第四部隊でも一、二を争う。

「和義」
 上段のベッドから声がした。
「あぁ、出来杉君」
「だから名字で呼ぶなって。何度言えばわかるんだよ」
「あぁ、ごめん。出来……、駿」
「よし」

 入隊したときに初めて会話したのが駿だった。ベッドにこしかけ、これからの事を思い暗い顔をしている僕に駿は実に気安く話しかけてきた。

「お前『野比』っていうんだってな? おもしろい名字だよな。まぁ、俺も人のことは言えないけどな、『出来杉』だぜ、デキスギ。体の丈夫さだけが取り柄の俺がデキスギだって言うんだから笑えるよな」

 後にも先にもこれほど馴れ馴れしかった友人はいない。
「お前今、放送で第四部隊が呼ばれなかったから安心しただろ」
 図星をつかれ内心動揺したが、別に隠す事でもあるまいと思い正直に言った。
「まぁ、確かに安心したね。好き好んで人を殺したりはしないさ」
 和義がそういうと、駿は鼻で笑った。
「よくいうよ。お前この間の戦闘で必死で逃げようとしていた兵士をしれっとした顔で撃ってたじゃないか。お前は温和そうな顔をしてるくせに本当は冷血人間だ」
 冗談めかして言ってはいるが、今のは駿の本音だろう。
「その冷血人間と平気で仲良くしている駿も立派に冷血人間としての素質があるよ」
「ごめんこうむりたいね」
 和義は自分の事を冷たい人間だとは思ってはいないが、銃で人を撃つことに対してはもはや何の感情も覚えない。それは周りの人間も同じだろう、と思ってはいたが他の人間は多少なりとも罪悪感を覚えるのだろうか。

「お前の爺さんは優しかったのにな。孫がこれじゃな」
「会ったこともないくせによくいうよ」
「お前の話しを聞いてりゃ想像つくさ。『野比のび太』って言う名前は笑えるけどな」
「そういう駿だって……」

 サイレンが鳴った。
『第四部隊は速やかなに規定の場所に集合せよ。繰り返す、第四部隊は速やかに規定の場所に集合せよ』

 一瞬沈黙が訪れたが、やがて駿が口火を切った。
「よし、じゃあ……」
 和義は駿の言葉を遮って続きを言った。
「殺しに行こうか」


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