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1.熱狂的金髪アフロ歌手 2.主題 3.KKKK大暴れ
4.つまり何が起きるのか? 5.来ドラ、マリオとルイージ 6.ドラえもん以外全部打ち切り

 

7.のび助の取材 8.出木杉の狂気 9.あれもこれも狂った
10.コインより仕事を下さい 11.外漫画人予報です 12.GKPTとは?

 

13.僕の家・みんなの家 14.練馬たそがれ 15.“ヤイ近衛”
16.テロ勃発 17.テロリスト 18.第二部隊全滅

 

19.先生動揺 20.大石巡査 21.ファイト! ドラエース
22.去らなかった危機 23.終末の始まり 24.パニック! パニック! パニック!

 

25.ドラえもんも打ち切り!? 26.もはや これまで 27.最終回の明かり
28.「あとがき」〜ドラえもん以外全部打ち切りのテーマ〜 29.スタッフロール  

 


1.熱狂的金髪アフロ歌手

 僕らがボックス席で各々の飲み物を飲んでいると、ステージで金髪アフロのグラサン大男がぶきっちょな調子で歌いだした。マイクの握り方もデタラメなので、音が大きくなったり小さくなったり、ノイズが入ったまま歌うので、なおさら聞き取りにくかった。
「あおぁ…なこと、ぉぉぉ、いぃな…っきた、ら、いいぁ……んなゆぅめ、んふ〜ふふ〜ふ」
 
「ねぇ、あれって、誰だっけ?」
 隣の席のスネ夫が僕に聞いた。
「ええっと、たしか… 週刊ジャンプにいた人だよね?」
「そうだそうだ。うー…、そうだよ、あのボがいっぱいつく人だ」
「まぁ、そんなことどうでもいいじゃねえか」
 スネ夫の隣のジャイアンが口を挟んだ。
「どうせあの調子じゃあ、漫画外追放だよ。何歌ってるかも全然わからないしさ」
「まあ今夜辺り、見納めかもしれないわね」
 僕の向かいの静香ちゃんが言った。
「見ても自慢にはならないけどね」
 静香ちゃんの隣に座っているドラえもんが付け加えた。

 するとカウンター席の方から、力任せにガラスのコップをテーブルに叩きつける音がして、僕等はびっくりして一斉にそっちを振り向くと、「元」テニスの王子様で、元ジャンプ出身者代表の越前リョーマが、こっちをもの凄い剣幕で睨みつけていた。彼は昔の美男子の趣の欠片も無い顔で、こっちを怒鳴りつけた。
「さっきから全部聞いてるんだ。そんなかわいそうなこと言わないでくれ。彼だって一生懸命頑張ってるんだ」
 それをスネ夫が、さっと反論した。
「越前さん。今、元ジャンプの漫画作品出身者の勤勉意欲の低さが、漫画ドラえもんの中では問題になってますけど、それはどう考えるんですか」
「確かにそれはそうだけど、僕達は一生懸命努力してるつもりなんだ。だから、もっと寛大な目で見てやってくれよ」
「越前さんも何度も同じことを言いますね」
 僕も反論に加わった。
「あ、それだけじゃございませんよ。犯罪者、ホームレス、売春、一番多いのはジャンプ出身者ですからね」
 そう言うと「元」テニスの王子様は、一瞬とても悔しそうな顔をした後、しげしげと目を伏せて顔を逸らした。
「これはもう、みんな追放かもしれませんよ」
 ドラえもんが言った。
「何を言うか」
 「元」王子様がそれを聞いて、カンカンに怒った顔で再びこっちを睨んだ。
「俺達、この世界を追い出されたら、行くところ無いぞ」
「いえいえ、二次的著作物の世界があるじゃないですか」
 僕が再び反論した。
「ネット上の漫画とか小説とか、ほら、同人誌とかなら半年毎の定期連載になるかも知れない」
「あんなところ、ホモ野郎の行くところだぞ。野蛮な腐女子がうようよしてるんだ」
「もとはといえば、お前のせいだぞ」
 すると「元」王子様の隣の席に座っていた手塚国光が、唐突に元王子につっかかってきた。
「ジャンプからの武器の持込を禁止するなんて、愚の骨頂だった」
「しかし、持込を禁止しなければ、俺達は助からなかったんだぞ」
「反乱を起こして、乗っ取ってしまえばよかったんだ」
 手塚は下品な怒りを込めながら喚いた。
「あれだけの装備があれば、こんなちっぽけな世界なんざ、一ヶ月で陥落したのに」

 混沌とした空気の中、誰かが「あら」と声をかけた。声のするほうを振り向くと、ママが立っていた。
「ああ、玉子さん」
「玉子さん」
 二人は大慌てで会話を中断して、身のフリを少々整えた。
「何、話してたんですか?」
 ママは笑顔を浮かべながら二人に問う。問われた二人は大いに慌てた。
「えー、あのー、」
「うー、そのー、」
「え、え、この街の人達は、素晴らしい!」
 元王子様が、先に思いついた。
「下町の雰囲気、最高!」
 手塚もそれに続いた。
「うふふふ、嬉しいわ」
 ママは頬に皺を作りながら、店の奥のほうへと引っ込んだ。

「ねえ、最近、のび太さんのお母さん、よくやってこない?」
 静香ちゃんが、ママの姿が遠くに行ってしまったのを確認してから僕にささやいた。
「そうだね、ここは外漫画人たちの溜まり場だから、反乱を起こさないように見張ってるんじゃないかな?」
「まあここは、あの一件が起る前から、情報がよく集まる場所だからね」
 ドラえもんがドラヤキを頬張りつつ言った。
「それだけ外漫画人たちも、僕達の情報に飢えてるってことだよ」

「ドラえもん、万歳」
「万歳」
 店の奥のほうで、そんな会話が聞こえてきた。目をやると、犬夜叉とでんじゃらすじーさんが、ママに向かってバンザイをしていた。
「あらら、元サンデー代表の方と元コロコロ代表の方ね」
 ママがご機嫌そうに笑った。
「今日はどうなさいましたの?」
「ええ、ドラえもん神殿を拝みに行きました」
「心臓の奥まですっきりなさいました」
「まぁ、それはいいわ」
「玉子さん、VIPルームを予約しておきましたので、どうぞ」
「あらら、うふふ」
 ママは二人の男に連れられて、ガラス張りのVIPルームに入っていった。
「よく言うよな」
 ジャイアンが呆れ声で言った。
「昔はあいつら、結構挑発的じゃなかったか?」
「そうだ、ライバル同士だったね」
「いっそ、デマを流して全員追放させちゃおうか」
「おいおい」
 ステージでは、別の外漫画人が歌いだしていた。
「まタ、あ、エ、る、日マデ〜」

 何故こうなったのかは、数ヶ月前に遡る。

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2.主題

ドラえもん以外全部打ち切り

原作 サイボーグ和クロ

原原典 小松左京

原典 筒井康隆

脚本 サイボーグ和クロ

 

音楽 K.M

撮影 熱血観戦の男

照明 クリリン

録音 サウンドレコーダー

美術 サイボーグ和クロ

編集 サイボーグ和クロ

装飾 及び 美術製作 日本デコレーション軽トラック協同組合の皆様

素材協力 ミニドラカンパニー ムービー部門

ヘア&メイク ミニドラカンパニー コスメ部門

衣装 骨川スネ夫

 

主演

ドラえもん

野比のび太

源静香

骨川スネ夫

剛田武

出木杉英才

監督:サイボーグ和クロ

協力:金麻呂他/遊ドラ心

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3.KKKK大暴れ

 二〇〇×年 一月十三日。まず始めに、コロコロコミックが騒動の発端からわずか一週間で廃刊に追いやられた。というのもこの時期には「教育ママゴンの集まり」と恐れられてきた、KKKK(子供達に 教育を 強制する 会)という保護者団体が、日本政府によってNPO(非政府組織)に格上げされ、権力が増してきたころだった。その団体が始めに行った行動とは、日本中の漫画を全て撤廃することであった。

 この日、のび助の務める○×商事新聞社社会部では、何台ものプッシュホンの電子音が朝早くから延々と鳴り響き、耳をつんざかんばかりだった。
「雑誌を運搬していたトラックが襲撃されただと」
「関東圏でも不買運動。で、損害は?」
「出版社で爆弾テロだと」
 受話器を誰かが取り上げるたび、彼らは信じられないという声を上げて喚いた。もはや混乱は、日本全国で起っていたのだ。
「デスク。デスク」
 今しがた受話器を取り上げたのび助が叫んだ。
「どうしたんだ」
 部長の桶狭間が言った。
「コロコロコミックの編集部が、KKKKの攻撃によって壊滅したそうです」
「えっ」
 桶狭間は真っ青になった。ドラえもんもコロコロコミックの管轄に入っているのだから、このままだとこっちの世界の存続も危ない。
「編集者が全員、殺されたのか」
「いえ、一部の人間は捕虜になっているそうです」
 桶狭間はまだ全身に鳥肌が立っていた。万が一編集部が全滅してしまえば、このドラえもんの世界は、コロコロと一緒に消滅する運命になる。
「デスク」
 今度は別ののび助の同僚が絶叫した。
「ついさっき、KKKKが犯行声明を出しました」
「なんだと。内容は」
「それが…」
 彼が少々顔をしかめた時、
「テレビでやってるぞ」
 と、誰かが叫んだ。
 社会部員達は、一斉にオフィスの隅に吊るされている一台の大型液晶テレビに駆け寄った。モニターには「臨時ニュース」というテロップが画面の左上に表示され、ニュースキャスターが大そう慌てた様子で原稿を読み上げていた。

『…先ほどからお伝えしております、KKKKによる週刊ジャンプ編集部への襲撃騒ぎの中、KKKKを名乗る団体から、犯行声明のビデオが届きました』

 キャスターの下の『KKKK 大暴れ!』というテロップが一旦消え、代わりに『KKKKから犯行声明』というテロップが映し出された。
『ええ、只今、準備ができたようですので、それでは再生致します』
 キャスターがそう言うと、一回画面が暗転した後、騒然となったオフィスルームが映し出された。そこはもう机は転倒し、パソコンは叩き壊され、窓ガラスは木端微塵に割れ、という大地震にでも遭ったかのような光景である。
 その光景の中心に、五人のマスクをした中年女性と、彼女達に取り囲まれた男性が映し出された。そのうち、中年女性の一人が話し始めた。

『ええ、私達が今回のような暴挙に出てしまったのは、全て私達の子供のためであります。漫画と言うものは人間が作り出してきた中で、一番教育に悪影響を及ぼす悪魔の品物であって、今後私達は子供達の未来のために、教育のために、少年誌や児童誌を完全に撲滅していくことを誓いました』
 そこまで言うと彼女は喋るのをやめて、他の女性に交代した。
『そこで私達は、まずコロコロコミックを潰すことから始めました。コロコロコミックは皆様も知っている通り、非常に下品で教育に悪影響を及ぼすような、肥溜めのような雑誌であり、我々良心的保護者達の大敵であります。しかしたった今、そのコロコロコミックは消滅したのです。これからはコロコロコミックなどという、下劣で下品な漫画はなくなるのです』
 イエー、と、女性達が歓声を上げた。
「こいつら、殺されるんじゃねえか。自分のガキに」
 桶狭間が言った。
 
 そして彼女達は、今後も他の少年誌や児童誌を徹底的に叩き潰していくこと、無駄な抵抗をしなければ編集者は殺さないということ、ドラえもんと言う漫画だけは生かしておいてやるということ、今後コロコロコミックはドラえもんのみを掲載することを要求することを宣言し、そこで犯行声明は終わっていた。

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4.つまり、何が起きるのか?

 同じ時刻、のび太の先生と野比玉子は、○×小学校の会議室にいた。先生は長い会議用の机に面した椅子に腰掛け、玉子はカーテンの閉まった窓の隙間から、外の景色を眺めている。 彼ら二人は、『ドラえもん』の中でも重要な役割を果たしているため、舞台裏における地位も高いのだ。
「きっとこれだけでは、おさまらないでしょうね」
 玉子が深刻そうな声で言った。
「編集部を一つ潰せるだけの権力と腕力があるのなら、恐らく他の雑誌も次々に消滅するでしょうね」
 先生が重い口を開いた。
「まあ、そうでしょうな」
 するとその時、入り口の戸がコンコンと外からノックされ、校長先生が姿を表した。
「失礼します」
 彼は扉を閉めて、二人に近づいた。
「たった今、町内会の会議で決定した事項をまとめました。以下が決定案です。
 @『ドラえもん』は今後も雑誌上にて継続する
 A『ドラえもん』は積極的に漫画難民(雑誌が消滅したことにより路頭に迷った漫画の登場人物)を受け入れる
 B『ドラえもん』は今後、現在も存続している各少年誌及び児童誌と連携を取ってKKKKに対抗する
以上です」
「うむ、ご苦労」
 先生が言った。
「しかし、漫画難民は『ドラえもん』はどれくらい受け入れるつもりなのかね?」
「はい。廃刊まで連載していたコロコロコミックの漫画は二十(※)ありました。一方、現在残っているメジャーな少年誌及び児童誌は、
 ・週刊少年サンデー
 ・週刊少年マガジン
 ・週刊少年ジャンプ
 ・週刊少年チャンピオン
 ・コミックボンボン
 ・月刊プレコミックブンブン
の六つです。これに『ドラえもん』が加わりますから、合計七つの漫画雑誌で分散することになります」
(※:ドラベースは『ドラえもん』の外伝的作品につき除外)
「そうか、だとすると一つの雑誌につき約三作品、避難することになるな」
「そういうことです。そして決議によると、受け入れる漫画は…」

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5.来ドラ、マリオとルイージ

 同じころ。死に物狂いでようやく『ドラえもん』に到着した一団が、練馬駅の改札口にごった返していた。
「不安だよ、マリオ」
 人ごみのなかで、二人組みの男が立ちすくんでいた。
「あんなに古臭い世界で、俺達やっていけるのかなあ」
 緑色の服を着て緑色の帽子を被ったのっぽの男が不安そうな声を上げた。
「なあに、心配するなルイージ」
 もう一人のチビの赤い服を着て赤い帽子を被りやや太った男は気楽に言った。
「俺達の人気は国際的だからな。きっとこっちでも俺らはひっぱりだこだよ」
 そんな話をしている二人の後から、誰かが急に二人の肩を叩いてきた。二人がびっくりして振り向くと、そこには初老のやや痩せた退室の男が立っていた。
「おお、オーキド」
 マリオが嬉しそうに声をかけた。
「ということは、ポケットモンスターも全員脱出したのか」
「そういうことじゃな」
 オーキドも嬉しそうに答えた。
「また是非、こっちの世界でも大活躍しておくれよ」
「おう、まかせとけ」
「どんとこいだ」
 三人はそんな会話を交わした後、練馬駅の改札をゆっくりと通り抜けた。そして出口に近づいた時、マリオが言った。
「お金はたんまり持ってきたからな。俺達二人に加えて奥さんを一人ずつもらっても一生遊んでいけるくらいに」
「それはいいや」
 ルイージが嬉しそうに笑った。
「俺は『ドラえもん』で活躍なんざしたくないもんな。貧乏くさいだろう」
「俺だってそうだよ」
 マリオもニヤリと笑った。
「あ、そうだ。株でもやって金を増やして、外国の雑誌にでも行こうか。ムチャクチャ豪華なところに」
「ううん、マリオ。お前についてきてよかったよ」
 二人はGod knowsを口ずさみながら、練馬駅を出た。

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6.ドラえもん以外全部打ち切り

 それから一週間後。週刊サンデーを含む小学館の漫画が全て廃刊に追い込まれた。そしてその一週間後には、講談社の少年マガジンとコミックボンボンも廃刊になった。そのまた二日後には、集英社の少年ジャンプ。そのまた翌日には、秋田書店の少年チャンピオンや、ガンガン、エース、シリウス、ハングなどの漫画も一斉に潰された。そしてその後の一ヶ月で、残った雑誌も次々に消え去って…

 遂に日本の漫画は、ドラえもんだけになってしまった。

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7.のび助の取材

「あっ。パパ」
 僕はパパの姿を見てパッと立ち上がった。
「やあのび太。来てたのか」
 パパもこっちに気がついて、ぱっと手を挙げた。
「ああ、のび助さん」
 静香ちゃんが慌てて、椅子のスペースを開けた。
「ああ、ありがとう」
 パパは少し頭を下げて、空いたスペースに収まった。
「のび助さん、今日はどうしてここに来たの?」
 スネ夫が尋ねる。
「ああ、僕は新聞社に勤めてるから、ちょっと取材に行ってきたんだ」
「へぇ、誰の取材ですか」
「出木杉君のだよ」
「出木杉?」
 スネ夫は意外そうな声を上げた。
「そう。あの一件以来、練馬区のお偉いさんや頭のいい人たちが集まって、定期的に現在の漫画世界の状況報告をすることになったんだよ。出木杉君は、その広報部長なのさ」
「すげえなあ」
 ジャイアンが感嘆の声を上げた。
「あいつももう、そんなにお偉いさんになったのか」
「まぁ、ともかくだ。僕はその発表の取材に行ってきたというわけ」
「それじゃあ、今後この世界がどうなっていくかも、のび助さんは知ってるんだね?」
 スネ夫が驚きの声を上げた。
「しーっ」
 パパが慌ててそれを制した。
「あんまり他の人に聞かれるとまずい」
 そしてスネ夫が落ち着いたのを見計らって、パパは口を開いた。
「あるところまでは、知っている。でも、全部は知らない」
「えっ。それってどういうこと」
 僕は驚いた。
「まぁいろいろあってな」
「のび助さん、私達にだけ、出木杉君の発表、教えてくださらない」
 静香ちゃんが言った。
「わかった。君達にだけ特別に、教えてあげよう」

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8.出木杉の狂気

 今から一時間ほど前。練馬区民体育館の会議室において、出木杉による「ここ最近の大規模な漫画雑誌の勢力変化と今後の予測について」というタイトルで、説明会が開かれていた。正面のスクリーンの前に出木杉が立ち、のび助をはじめとする記者たちは、全員スクリーンを正面に見るように配置されたいくつもの会議机でメモを取っていた。
 出木杉は長い指示棒を持ち、スクリーンの一箇所をトントンを突きながら長い説明を始めた。

「ええ、現在日本の漫画会は、未曾有の事態に陥ってしまったわけですが。その原因となるKKKKは、もともとずっと以前から、強い発言力を持つ団体でした。保護者達は『五年以内に子供達の通信簿をオール5にする』と宣言するその団体に大量のカンパを支払い、一時期の資本は三十億円を突破したそうです。
 その三十億円を使って、彼らは次々に政治家を買収していきました。たまに買収に応じない者もいましたが、そういう人々は次々に、KKKKの過激派に抹殺されてきたのです。そして遂に政府は、彼等がKKKKを立ち上げて初めて掲示した要求『KKKKをNPO法人として認める』ことを受け入れ、KKKKは政府の一機関にのし上がったわけです。
 そして彼らは強引な手段を使い、次々に漫画雑誌を出版する出版社を襲撃し、どの雑誌の編集部も全滅しました。そんな中、雑誌の消滅による漫画の打ち切りを恐れた漫画のキャラクター達が、唯一の安全地帯『ドラえもん』に大勢避難してきました。それにより練馬区の住人は、事件発生以前の約六十倍にまで膨れ上がりました。それにより、練馬区は現在慢性的な住宅難に陥り、多くの外漫画人(外部からやってきた漫画キャラクターの俗称)がホームレスに落ちぶれています。そのため今練馬区では、プレハブによる簡易公営住宅や、ホテルなどとの連携によるホームレスの一掃作戦を計画しています」
 のび助たちは一言も漏らさぬといわんばかりに耳を傾けながら、メモ用紙にペンを猛スピードで走らせた。それは新聞の記事のためだけではなく、自分達にとっても重大な問題であったからこそ、必死になって彼の話を一言一言頭に叩き込んでいったのだ。
「そして、今後の予測は…」
 出木杉がそこまで言った時、彼の胸ポケットがブルブルと振動した。慌てて彼は胸ポケットから震えている携帯電話を取り出し、ぱっと開いて「失礼」 と一言言い、部屋の隅にしゃがみこんだ。

 のび助たちは電話がいつ終わらないかと今か今かと待っていた。出木杉の電話はやや長電話だった。遂に出木杉が立ち上がって携帯電話を閉じた瞬間、記者たちは期待の目でもって彼を注視した。しかし、電話をした後の彼は、明らかにする前の彼と違っていた。
 出木杉の目はトロンと虚ろになり、口は半開きだった。手がかすかに震え、膝が少し笑っていた。記者たちがどうしたものかと不信に思っていると、突然出木杉はアッハッハと笑い出し、ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜 ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜と奇妙な歌を唄い奇妙な振り付けをしながら、出入口からさっさと帰ってしまった。
「わああ、出木杉さん、どこ行くんですか」
「今後の予測はどうなるんですか」
 記者達は慌てて喚いて彼の後を急いで追いかけたが、不思議なことに、誰一人として彼の姿を見つけることはできなかったのだ。


「で、結局今後の予測はわからなくなっちゃったんですか」
 スネ夫が驚いて言った。
「ああ、そうなんだ」
「君は、そのまんま黙って見送ったのか」
 聞き馴染みの無い怒号が飛んだので、僕達は一斉にそっちを振り返ると、声の主(と思われる)高畑・T・タカミチをはじめとした何人もの外漫画人が、集まってきてこっちを睨んでいた。よくよく周囲を見回すと、隣のボックス席の外漫画人はおろか、店中の外漫画人がこっちに首を向けていた。どうやら僕らの話を聞きつけたらしい。
「そうだ。なんで何が何でもとっつかまえて、聞き出さなかったんだ。それでも貴様は記者か」
 隣のボックス席の脳噛ネウロがカンカンに怒った顔でブーイングした。
「そうだそうだ」
「もっとしっかりやれよ、この野郎」
 ブーイングが店中に広まってきて、頭が痛くなってきたころ、ジャイアンとスネ夫が「うるせえよ、お前ら」「仕方ねえだろ」と連中をたしなめ始めた。

 出木杉だけではなかった。あの一件以来、全てが狂っていった。

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9.あれもこれも狂った

 あの一件から数週間後。僕はとある用事で、電車で少し遠い町まで、一人で出かけることになった。
 切符を買って改札をくぐり、駅について電車に乗ったところまでは、何ら普段と変わらなかったのだが、その直後にこっくりこっくりと居眠りを始めたのがいけなかった。何にせよその日の前日は、気になるテレビを見ていて夜更かしをしたのだ。

『間も無く 稲荷山公園』のアナウンスでふと目を醒ますと、僕は大いに腰を抜かした。僕の座ってる席の目の前には、ずらっと外漫画人たちが大勢並んでいたのだ。それどころかいつの間にか、僕の乗っている車両は満員電車になっていて、そのほとんどが外漫画人によって埋め尽くされていたのだ。
 僕は稲荷山公園で降りなくてはならなかったので、慌てて立ち上がってドアに向かおうとした。しかし、外漫画人達はなかなか通路を開けてくれない。というより、スペースを開けようにもこれ以上詰められないというほど乗客が押し込まれていたので、事実上それは不可能でもあった。仕方無しに僕は無理やり彼等の間に入って、強引にドアに向かおうとした。なんだよ、いてえなあ、と何人かが文句を言ったが、止むを得ないのだ。電車はもう、ホームに滑り込んでいる。
 しかし強引に向かおうとも、外漫画人達は僕達みたいな一般的な体格の人達ばかりではない。真冬にも関わらずアイスバーをかじる肥満児や(一日に二百本は食わんというくらいの勢いだった)、高校の制服を着たドラム缶(何故か手と足が生えていた)、異常に重装備な二頭身の蛙(その割には顔面がむき出しだったが)、背中から黒い翼が生えた女性(銀髪で凄い美人だった)といった異様な体つきの人ばかりで、僕は満身創痍でたった今開いたドアに向かおうとしたが、ああ神も遂に見放しもうたか、僕の目の前でドアは閉じてしまった。僕が絶望に暮れながら再び動き出した電車に身を任せていると、同じ列車に乗り合わせた安雄と目が合った。彼もたった今、あの駅に降りようとしたらしかった。
 辛いよねえ、と言わんばかりに、彼は苦々しく笑った。僕も力なく笑って、頷き返した。



『ドラえもん』に流れ込んできた外国人で、登場人物は以前の数百、数千倍にまで膨れ上がっていた。
 その影響で、両(江戸時代を舞台にした漫画における共通通貨)は一両=十六万円前後だったのが、五十円代まで急落。ドル(海外を舞台にした漫画の共通通貨)は百円から三銭、コインは千円から八銭まで暴落した。
 そのため、これまで各々の漫画でトップの階級に居た外漫画人たちが、『ドラえもん』の中では瞬く間に落ちぶれていった。さらに、人口の爆発的な増加により、『ドラえもん』の中で一年間に消費されてきた食料が、僅か十八時間で姿を消した。登場人物の体格も標準的で、人口も少なかった『ドラえもん』の消費されてきた食料は、他の漫画と比べて比較的少なかったこともある。練馬の人々は、食料の高騰に打つ手は無かった。
 だからちょっとでも大きな通りに出れば、僕達のような練馬の住人は、「お茶漬けをくれ」「みそ汁をくれ」と言い続ける何人もの外漫画人たちにたかられてしまった。僕も以前五回ほど、外漫画人十数名にたかられたことがあった。

 それでも、有名な外漫画人たちは『始めは』重宝されていた。

 僕はその事件の二週間後、『スーパーごくせんブラザーズ』というドラマの主役に、マリオ兄弟が出てきたのを見たことがある。さらにその数日後に放映されたボチタマという動物の番組では、ポケットモンスターの四九〇に及ぶ全種類が出演していた。そのほか、外漫画人を主役にしたドラマは何本も製作された。
 しかし、そういった番組の視聴率は軒並み最悪だった。それというのも、外漫画人があまりの貧しさにテレビを持っていなかったことと、『ドラえもん』の元来の登場人物たちからも『せめてテレビでは外漫画人の居ない世界が見たい』という要望が相次いだのだ(これらはパパの会社でアンケートを取って明らかになった)。そのため騒動から二ヶ月もすると、外漫画人は完全にテレビから姿を消してしまったのだ。

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10.コインより仕事を下さい

「クビ。クビだって。何でだよ。俺はマリオだ。あの大俳優のマリオだぞ。なのにクビとはどういうわけだ」
 騒動からちょうど二ヶ月後。とある賃貸アパートの一室で、彼は電話の受話器に向かって散々喚いていた。一方弟のルイージは、今しがた取り込んだ洗濯物を几帳面に折りたたんでいた。
「もういい。もうわかった。もう二度と、お前の番組なんか出てやらないからな。後で公開するなよ」
 マリオは受話器に向かって絶叫した。そのとき丁度、玄関のチャイムがピンポンと鳴った。
「おや、家賃かな」
 ルイージがふと顔を上げた。
「ルイージ、悪いけど出てくれないか」
「いいとも兄貴」
 ルイージは立ち上がって、部屋の隅にある金庫を開き、何枚かコインを引っつかんでポケットに押し込め、玄関に向かった。

 やはりチャイムの主は大家の神成さんだった。家賃の回収に来たのだ。ドアを開けたルイージは、すかさずポケットから何十枚かコインを取り出し、枚数を数え始めた。
「ええと、うん。五七枚ある。はい、今月の家賃」
 と、ルイージはコインを差し出したが、神成さんは顔をしかめた。
「ええ。コイン。えっと、一枚八銭だから五七枚で…」
 神成さんはおもむろに電卓をポケットから取り出し、計算を始めた。
「ざっと五十円。全然足りませんな」
 詰め寄られたルイージはギョッとして、また部屋の金庫に走った。

「あと三分だけ待ってやる。考え直せ、言い直せ。もう待たないぞ」
 マリオは必死になって、電話口の相手と交渉していた。それも構わずルイージは、とりあえず金庫の中身を全てひっつかんで、なんとか玄関まで運び込んだ。

「これで全部ですよ」
 ルイージは何百枚もの金貨を見せびらかした。しかし、神成さんの顔は以前として曇っていた。
「いやあ、まだまだ全然足りませんね」
「へっ。嘘付け」
 思わずルイージは、素っ頓狂な声で口を滑らせた。神成さんはさらに目を吊り上げた。
「嘘じゃないぞ。いいか小僧。あとこのチャラチャラした金貨が、七万と五五二枚必要なんだ」
「そんな馬鹿な。金の亡者だ」
 さらにルイージは口を滑らせた。慌てて口を塞ぐも、時既に遅し。遂に神成さんはカンカンに怒鳴り始めた。
「なんだと、この。青二才が。小学生の計算もできねえのに、家を借りようなんてことは言語同断だ」
「なんだって」
 ルイージもカンカンになって反撃した。
「うるせえ、うるせえ。そもそもあんただって、いっつも家で盆栽ばっかりいじくっているだけじゃねえか」
「わしはもう定年退職で年金生活しとるんだ」
「へっ。お払い箱ってわけか。それじゃあ金の計算も、ろくにできないわけだ」
「こ、こ、こ、こ、この、の」
 遂に神成さんはタコの如く真っ赤な丸顔で激怒した。ルイージはそれを見て一瞬噴出しそうになったが、間も無くそのタコ顔から発せられる強烈な殺気を感じ取って、慌てて部屋の奥に退避しようとした。しかしあまりに慌てたためか足を引っ掛け、見事に転倒してしまった。そして遂に神成さんが大爆発の秒読みを開始した。

「はははぁ、頼むよ、見捨てないでくれよぉ、監督ぅ」
 もはや後が無いことに気づいたマリオは、自らの身に危険が迫っていることも知らず、ただただ電話口の向こうの監督に向かって懇願していた。その顔には、かつてのような大物のような貫禄は全く無い。
「見捨てないで、くれよぅ。見捨てられたら、飯も食えない」
 そこまで彼が言った瞬間、腹の底から響いてくるようなもの凄い轟音が轟いて、彼の腰をすっぽぬかした。彼は受話器を床に取り落として、椅子の上から転げ落ちた。
 途端に、再びドラム缶を二百個ほど屋根の上から落っことしたような爆発音がしたと思いきや、彼は数十万ボルトの高圧電流で大いに感電した。三秒ほどたって感電は収まったが、服はボロボロ、肌はガングロ、頭はアフロとドリフ状態である。部屋を見渡せば、内部から破裂したブラウン管のテレビ、十二個全部のボタンがはじけ飛んでいる電話、中身までコンガリ焼けた冷蔵庫、木端微塵になった蛍光灯、と酷い有様だ。
 間も無くルイージがおよよと泣きながら部屋に駆け込んできた。彼の姿も悲惨を極めて、服はボロボロ、肌もガングロと兄貴と同じ格好である。マリオはよろよろと彼に駆け寄った。
「な、何があったんだぁ」
「か、かぁ、か、神成さん、とてもとて、も怒って。もうこの家から出て行け、と言う」
「何で、家賃は払ったじゃないか」
 ルイージはまだ一応輝きを放っているコインをマリオの顔面に投げつけながら泣き叫んだ。
「『ドラえもん』では、こんなコイン、プラスチックのオモチャだってさ」

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11.外漫画人予報です

 夜、練馬区商店街の通りに面した、有名電化製品店の大きなショーウィンドーに並ぶ、大小の液晶テレビたちの画面には全て同じく、普段よく見られるようなニュース番組が流れていた。流線型をモチーフにした、寒色系のバックグラウンドの前に、ニュースキャスターがこっちを見つつ、朗らかな表情で淡々とニュースを読み上げていた。

『…はい、今日のニュースは以上です。それでは次は、外漫画人情報です。岩原さん』

(画面が変わって、CGで作られた練馬区の地図が、宙に浮かんでいるように表示される。地図の上方には『明日の外漫画人予報』という文字が映し出されている。その前にこれまた朗らかな表情の外漫画人予報士が佇んでいる)

『はい、外漫画人予報氏の岩原忠光です。はい、あの一件からもう既に、二ヵ月半も経過しているわけなんですけど、ええ本日も非常に、外漫画人の多い一日でしたね。こちらにも様々な情報が入ってきております。
 ええ、まず… はい、市民ホール付近。(手に持った指示棒で、市民ホールの辺りをとんとんとつつく)こちらでは本日昼頃、近くの喫茶店から、大便が大通り一杯にぶちまけられました。それにより付近は一時大パニックに陥って、ええ、現在も現場は、その臭いが未だ消えないという、ええ、恐ろしい事態になっているわけですが。この大便は、その喫茶店のトイレから排出されたもので、その大便をした、元 国会議員(ジャンプ:浦安鉄筋家族出身)が、逮捕されております。ええ、この付近は少年チャンピオンからの外漫画人が非常に多く分布しているということでございまして、飲食店などの経営者は十分に、ええ、衛生面に気をつけてもらいたいと。はい。
 続きまして…、こちら。練馬駅周辺のガード下。(指示棒で、練馬駅周辺の鉄道沿線をぐるぐると指す)ここでは連日、ヴァンパイア、つまり吸血鬼による被害が相次いで報告されてきております。先日の夜も、塾帰りの高校生がこの周辺で、吸血鬼によって血を吸われるという事件がありまして、高校生の命に別状は無いとのことですが、この近くを出歩く際は引き続き十分な警戒が必要と思われます。
 あ、あとその吸血鬼の特徴ですが、目撃された方の情報によりますと、西洋人に近い顔立ちで、長い金髪。身長は一三〇センチ程で、服装はゴスロリの、ええ、女子中学生と、いうことで。この付近はゴスロリの女子中学生に十分注意されたい、と。いうわけでございまして。
 で、あと。ここ。(指示棒で学校の裏山を指す)学校の裏山。こちらでは先日、夜間に肝試しに行った男性が何者かに鉈で襲われ、翌朝に頭を叩き割られた状態の、ええいわゆる惨殺死体で発見されるという、非常に痛ましい事件が、ええ、起こっておりまして。一緒に同行した友人の目撃談によりますと、白い服を着た、中学生くらいの、これまた女の子だと、いうんですねえ。はい。どうやらあの一件以来、女子中学生が急におっかなくなったような気がして、わたくし自身大いに驚いているんですけど。まぁ、そんなわけで。この辺りでは前々からその「鉈女」が目撃されており、進入は非常に危険ですので、くれぐれもお近づきのないように、ええ、注意していただきたいと思います。
 ええ、このように最近では外漫画人による犯罪行為が多発しているわけですが、今現在確認された分の外漫画人による犯罪は、一日当たり三十件という、ええ、多さで御座いまして。わたくしも驚きを隠しえないわけですけど。



 はい、明日も全域的に、西にはマガジン系、東にはジャンプ系の外漫画人が多く分布されることが予測されます。特に大通り周辺では外漫画人が、多くたむろすることが予想されます。先ほども申しましたが、飲食店経営の方、チャンピオン系外漫画人には十分、お気をつけ下さい。また、 練馬駅近辺の西武池袋線などのガード下などは要注意です。この近辺ではマガジンやジャンプ系の外漫画人が多く予想され、特にジャンプ系の外漫画人には十分注意されたいと。で、学校の裏山近辺は特に危険です。こちらはガンガン系の外漫画人が多く分布しておりますが、その他の凶悪な外漫画人も非常に多く、目撃されております。 また郊外の裏通りなども危険な外漫画人が多いため、そういったところには極力近づかないようお願いいたします。

 以上、外漫画人予報でした!』

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12.GKPTとは?

 相次ぐ外漫画人の犯罪を防止するという面目で、ママを中心とする練馬区町内会がGKPT(外漫画人犯罪者を こてん ぱんにする チーム)を結成したのもその頃である。始めのうちは、町内会の中で腕力の強い人を適当に選びぬいて区内を巡回するという、いわゆる町内パトロールのようなことしかやっていなかったのだが、そのうち銃火器を使える人を雇って火砲を強化したり、あらゆるライトノベルの登場人物まで引っ張り込んできたりと、どんどん大掛かりな組織になってしまった。そのうち遂に、政府から民間特殊部隊として正式に認められ、警察官同様犯罪者に大して逮捕状を突きつけることができるまでになった。少しでも犯罪を犯した外漫画人たちは、次々にGKPTによって捕えられ、どんどん『ドラえもん』から追放されていった。

 僕は以前、GKPTが外漫画人を検挙する現場を何度か見たことがある。ある日、電車のガード下を歩いていたら、以前大便を暴発させて厳重注意に処せられた「国会議員」という人が、道端で大便をしようとしていたのだ。僕が慌てて逃げようとした矢先、GKPTの腕章をつけた男たちがどこからともなく現れて、今しがたズボンを下ろしかけた国会議員を、ロープでグルグル巻きにしてあっというまにひっ捕らえ、いつの間にか近くに止まっていた連行用のマイクロバスに彼を押し込め、そのまま走り去っていったのだ。しかしこの頃は、まだGKPTも強化してすぐで、まだ生易しいほうだったと言うべきか。

 別の日、近所の公園に遊びに行ったとき、坂田銀時と志村新八が、噴水の鯉を焼き魚にしようとして、GAPTに見つかったこともあった。僕が二人の悪行を後方から眺めていると、唐突に鬼の金棒のような巨大な刺バットを持ったGKPT美少女が現れ、彼等の頭めがけてそのバットを振り下ろしたので、大いに腰を抜かした。普通だったら即死ものだったが、二人がギャグ漫画の登場人物であったから、特大のタンコブが二つ出来上がっただけで済んだ。しかしその直後、その少女がところ構わず彼らに次々にバットを振り下ろしたため、僕はとうとう足に力が入らなくなり、へなへなと座り込んだ。もはや見る影も無い程に変形してしまった二人を、彼女は構わずにどこかへ引きずっていってしまった。

 またある日は、ジャガージュン市とその他愉快な仲間達が、駅前でゲリラライブをしていたこともある(駅前でのライブは、本来は区役所からの許可が必要なのだが、彼らはそれを知らなかったらしい)。見ていて間も無くどこからか(こう言っては失礼だが)体に起伏の無い、小柄な女子高生(…の制服を着ていたのだ)がやってきた。彼女は手にしている分厚いハードSFの本を読みつつ、何か呪文のようなものを唱え始めた。何だ何だと思っていると、唐突にジュン市の持つ笛が大爆発を起こし、ライブメンバーも散り散りに吹っ飛び、倒れている隙に(これまたいつの間にか現れた)GKPTのマイクロバスに次々に連行されてしまった。僕が呆気に取られている横で、その女子高生は本を読みつつ何処かへ行ってしまった。

 こんな感じで、GKPTによって、犯罪を犯した外漫画人は次々にひっ捕らえられ、練馬区の治安はだいぶ安定した。しかし、そのやり方があまりにも過激を極めていて『GKPTは外漫画人を減らすために結成されたのではないか』という噂が立つほどだった。

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13.僕の家・みんなの家

「しかしこう、物価が値上がりしてはたまらないな」
 回想の世界から帰ってきた僕に、ジャイアンが言った。
「昨日、マクドナルドで単品のハンバーガーを食べたら、千円取られた」
「そんなの、まだいいほうじゃない」
 静香ちゃんが口を挟んだ。
「この間スーパーで、レトルトのカレーを買いに行ったのよ。そしたら値札をみてびっくり。五千円もしたのよ。一年前は三百円もしなかったのに」
「きっと政府もいっぱいいっぱいなんだよ」
 スネ夫がため息混じりに言った。
「僕のパパに官僚の友達がいるんだけど、その人の話だと今の物価を維持するのが精一杯なんだってさ。もちろん、必死に増産計画とか、デフレにもちこむためのアプローチもいろいろやってるけど、少なくともあと半年はこのままだってさ」
「じゃあ、あと半年したら、物価が戻るのか」
「いやあ、元の物価にはまだ戻らないよ。とりあえず、二年以内に今より物価を半分にするのが目標らしい。もとの物価に戻るには、五年くらいかかるそうだ」
「五年。五年だって」
 ジャイアンが悲鳴を上げた。
「五年ものあいだ、こんな生活をしていかなきゃならんのか」
「だってしょうがないじゃないか」
 スネ夫がなだめた。
「こんなことになってしまったんだ。どうしようもないよ。それに僕達『ドラえもん』の元来の登場人物たちの生活は、一般的な外漫画人と比べて、まだいい方じゃないか。見ろ、あのマリオ兄弟だって、あの一件からわずか三ヶ月で、ガード下のホームレスに成り下がったじゃないか」
「ああ、そういえばあいつら、捕まったみたいだね」
 僕がふと、今日のニュースを思い出して言った。
「えっ。捕まった」
「うん。駄菓子屋を襲撃して、金貨のチョコレートを盗み出そうとして、待ち伏せていたGKPTに捕まったんだ」
「へぇ、あいつらも落ちぶれたもんだなあ」
 スネ夫が驚きのため息をついた。
「でも、GKPTのおかげで、だいぶ治安もよくなったよね」
 今しがたおかわりのドラヤキを食べ終わったドラえもんが言った。
「まぁね。前と比べれば、店の万引きとかも減ったみたいだし」
「もう町の中をびくびくして歩き回る必要もないしな」
「そう考えると、GKPTもそれなりに役に立ってるみたい」
「う〜ん、でもまだ裏山の方は危ないらしいぞ」
 パパが煙草をふかしながら言った。
「まだ『鉈女』も捕まってないらしい。この間もまた、中年男性の惨殺死体が見つかったって言うし」
「流石のGKPTも、裏山の方は危なくてなかなか近づけないのかな」
 スネ夫がちょっと意外そうに言った。
「まぁ、下手をすれば返り討ちにあってしまうからかなぁ。鉈女だって、昔はどこぞの特殊部隊をもこてんぱんにしてしまったという噂もあるし」

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14.練馬たそがれ

「しかし、外漫画人はみんな職無しになってしまったみたいだなぁ」
 パパやドラえもん、静香ちゃんが一時の用で一旦席を外した時、僕は言った。しかしスネ夫は
「いや、そうでもないみたいだぜ。一部の外漫画人は、一応人並みの暮らしをしてるって言うし」
「本当かい」
「そうさ。例えば… 僕のパパの友達に、外漫画人の女の人をメイドとして雇っている人がいたよ」
「えっ。そんなものがあるのか」
「うん。低賃金で色々働いてくれるから、すごく便利なんだって。食事もそれなりのものを食べさせておけばいいって言うし」
「例えば、そいつはどんなやつをメイドとして雇ってるんだ」
 ジャイアンが興味津々で尋ねる。
「ええと… ウィンリィ・ロックベル、沢渡いずみと… あとそうだ、翠星石」
「なんだってっ」
 ジャイアンが大いに仰天して立ち上がった。
「翠星石がメイドだと。そのオッサン」
「ああ、そうだけど」
「いい、いやはやいやはや」
 ジャイアンは大そうショックな顔をして、ぶつぶつ何か言いながら席についた。

「メイドの他の職業で、食いつないでるやつはいるの?」
「ああ、それなりにいるよ。やっこさんとこなんかは」
 スネ夫は密かに、ぼくらの席の隣で日本酒をぐびぐびと飲んでいる脳噛ネウロを指差した。
「探偵業で何とか食べているらしい。でも練馬区は、彼等のもともと居た場所みたいに謎だらけじゃないから、やってくる依頼はろくなもんじゃないさ。うちの行方不明の猫を探してくれとか、夫の浮気調査とか、そういうのばっかりだ」
 スネ夫は残っているチーズケーキを一口で食べきった。
「おかげですっかり彼は『謎』の空腹に苦しんだ末、ひどく弱体化してしまった。もうヤコをぶん投げる力はおろか、ダンベル一つ持ち上げられないそうだ。そのせいで『フリ』だったはずが本当に弱腰になってしまったんだ」
「えっ」
「もう今じゃヤコにも逆らえないそうだ。ヤコも思いあがって、相当ネウロのことを苛めてるらしいよ。この間も、彼女がネウロに首輪をつけて町内を散歩させているのを見た」
 スネ夫は皿に残ったクリームを一通り舐め終えて、
「まるで下克上だ」
「彼もあの一件から、随分変わったんだな」
 僕は驚きの声を上げた。
「『ソッチ』の性癖を持ってる奴にとっては、大そう苦痛なんだろうな」
「いいや、それが結構楽しんでるらしいぞ」
 僕達はクスクスと含み笑いをした。

「そういえば俺も、そんな感じの話を聞いたことがあるぞ」
 ジャイアンが言う。
「この間商店街で、麻帆良学園女子中等部の連中が、どこぞの電気屋のキャンペーンガールをやっていた。あと、大沢木大鉄のタクシーも一回見かけたし、あと、これは聞いた話なんだけど、歌舞伎町の方で水銀燈が働いてるらしい」
「へぇ。ヤクルトのCMに出ていたのは知ってたけど、あれだけじゃなかったのか」
 スネ夫が素っ頓狂な声を上げた。
「バーのママさんかい」
「いいや、『風俗店』の女王様役だそうだ」
 俺達はまたクスクスと笑った。物価高や治安の悪化はこたえるが、友人との話題にこと欠かなくなったのはまことにありがたい。

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15.“ヤイ 近衛”

「まったく、何を言ってるのかしら。そんなこと無理に決まってるじゃない。近衛サン」
 喫茶店のVIPルームで、野比玉子は呆れた声を上げた。
「無理に決まってるじゃない、近衛」
「やい近衛」
 犬夜叉とじーさんが続く。
「ですから玉子サン、特定の区域だけ、外漫画人たちにも、自治区域を認めてほしいのですじゃ」
 近衛氏は嘆願するような声で言った。
「だから駄目ですってば。もともと建物の密集している練馬区の中で、中・高・大一貫校の生徒全員を収容できるスペースなんてありませんよ」
「ありませんよ、近衛」
「やい近衛」
「頼みます、玉子サン、この通りじゃ」
 近衛氏は椅子からパッと立ち上がって、床にひれ伏した。
「今回の騒動のせいで、私の学園の三分の一の生徒が、同人誌の世界に放り出されてしもうた。ワシは彼女達が今、どんな目にあっているかと思うと」
 近衛氏はおいおいと泣き始めた。
「もしもこの世界に麻帆良学園の代用施設が完成すれば、また全員集結できるんじゃ。年寄りのわがままじゃ。どうか聞き入れてくださいまし」
「あのねえ」
 野比玉子は少し眉に皺を寄せた。
「なんで練馬区の町内会が、外漫画人の自治区を認めなかったか、知ってますか? 下手に自治区を与えると、土地の所有権や治外法権なんかの問題が出てきて、紛争になる恐れがあるからなんですよ。街の治安を維持するためなんです。理解してください」
「理解しろ、近衛」
「やい近衛」
「ひどい。あまりにひどい。自分達の街の治安のためなら、他の漫画の登場人物達はどうなっても良いと言うのですか」
 近衛氏は遂に怒りをあらわにした。しかし玉子は、構わず言った。
「皆さん、言うんですよ。自分達の世界だけ守って、他の世界は守らないのかって。でも、もう既に、あなた達の世界は『打ち切られた』んです! 今、日本の漫画界にある漫画は『ドラえもん』だけなんです! 今、必要なのは『ドラえもん』の平和と、秩序だけなんですよっ!」
「だけなんですよっ!」
「よー。」
 もはや泣くことさえ忘れた近衛氏は、怒りの矛先を二人に向けた。
「おい、そこの若いの二人。お前ら、いつから玉子さんの犬に成り下がったんじゃ。『ドラえもん』との人気取り競争の歴史を忘れたとは言わせんぞ」
 そう言われた二人は、一瞬うっと言って黙り込んだ。しかし、
「競争の歴史は、犬夜叉と一緒に消滅した、んだぜ」
「どうでもいいけどワシは98歳だから、あんたより長生きじゃ」
「うまいわね、ちょっと店員さん、こちらのじーさんに座布団を一枚」
 遂に近衛氏は、首をうな垂れて、力なく椅子に座りなおした。間も無く店員が、どこからとも無く座布団を持ってきた。

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16.テロ勃発

 先ほど席を外したドラえもんと静香とのび助は、たった今用事を終えて、三人で喫茶店に戻ろうとしていた。しかしその矢先、ドラえもんがある物に気がついた。
「ん、あれは何だ?」
 彼は上空に上がった巨大な風船を指差した。
「あ、あれはアドバルーンじゃないのか。デパートとかの」
 のび助が言う。
「でも、アドバルーンだったら広告とかを吊り下げておく物だけど… 何もついてないわ」
 静香が不思議そうに言った。
「それに紐で固定されてないみたいだ。どんどん空に上がっていくぞ」
「ふうむ、確かにアドバルーンにしては不自然だなあ」
 と、三人が話していると、どこからともなく凄まじい轟音が強風と共に響いてきて、危うくドラえもんがつんのめって転倒しそうになった。
「な、何だ何だ」
 三人が風上の方角に顔を向けると、黒々とした煙を吐き出している爆心地となった文具店が、彼等の六つの目に飛び込んできた。そしてその黒煙の中から、異常なまでに筋肉の発達した大男が現れた。
「うわぁ、何だあいつは」
 通行人の一人が絶叫した。ドラえもんはパッと彼を思い出した。
「あっ。大変だたいへんだ。あれは至郎田正影だ」
 ドラえもんの声を聞いたそこらじゅうの人々はわっと言って散り散りになった。至郎田正影は三人を見つけ、こっちに向かって歩いてきた。
「わぁ。逃げろ」
「早く早く」
 三人は数秒間口々に叫んだ後、慌てて後方へ退却を始めた。

 しかし逃走の途中にも、彼らは色んなものに出くわした。
 三丁目の交番では魚雷ガールがガラス戸を突き破って巡査を叩きのめすわ、銀行は麦わら海賊団に襲撃されるわ、黒ずくめの二人組みの男は機関銃をぶっ放すわ、タイガー軍団は空き地に巨大なダンボールタワーを建てるわ、クッパはアーケードを暴走するわ、八百屋ではお登勢が主人を殴りつけるわ、犬は吼えるは子供は泣くわの大混乱である。
 ドラえもんはふと思った。
(もしやあの風船が、混乱の元凶なのでは。もしくはあの風船が、この混乱を起こすための合図だったのでは)
 ロケット団のぶっ放した大砲をなんとかやり過ごし、三人はようやく野比家に飛び込んだ。はぁはぁと息を切らしながら、のび助がドアに鍵を掛けた。
「一体どうなってるの」
 静香が不安そうな顔で言う。
「僕にもわからない」
 ドラえもんも困惑した表情だ。その時、のび助が唐突に立ち上がった。
「しまった。のび太達はまだ喫茶店だ」
「あっ」
 三人は慌てて外に飛び出そうとしてためらった。無闇に出て行けば、また危険な目に遭うのは確実である。
「どうしたもんだろう」
 のび助が絶望的な声で言った。

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17.テロリスト

 唐突に、スネ夫のポケットの携帯電話がピリリリリと鳴り始めた。慌ててスネ夫は携帯電話を取り出し、パッと開いた。
「パパからだ。一体何だろう」
 『通話』を押して、携帯電話を構える。
「あ、もしもし。パパ。何の用?… えっ。ほんと。そんな馬鹿な。で、犯人は? え、そうなの。うん、うん。わかった。気をつけてね。じゃあ」
 電話を切り、再びポケットに収める。
「大変だ。さっき言ったパパの友達の家が、謎の大爆発を起こしたって。パパの友達も重傷だ」
「えっ」
 僕とジャイアンはギョッとした。
「何だって、そんなことに」
「僕だって知ったこっちゃ無いよ」
 スネ夫も困惑した顔だ。
「パパの話だと、もう警察の人が飛んできて調べてるけど、どうやら爆弾が仕掛けられていたらしいんだ」
「爆弾」
 僕とジャイアンは同時に叫んだ。
「しかも、爆弾があったのは家の真ん中だというんだ。誰かが密かに忍び込んで、爆弾を仕掛けたらしい。理由はわからないけど…」
「いや、待て。家の内部の人間が爆弾を仕掛けた、という可能性もあるぞ」
 ジャイアンが大げさに腕を組んだ。
「その家には、その友達の他に、誰が住んでいたんだったか」
「ううん、パパの話だと、あの人は一人暮らしらしい。だからあと家に居るのは…」
 スネ夫は何かに気づいたように、目を見開いた。
「外漫画人メイド」
「あっ」
 僕とジャイアンも声を上げた。
「そういえば、外漫画人メイドの行方は、わかってるのか」
「ちょっと待ってて」
 スネ夫はまた携帯電話を取り出し、慌てて自分の父親に電話をかけた。数分の会話の後、スネ夫は電話を切った。
「三人のうち、二人は瓦礫の中から救出されたって。でも、一人だけ爆破の数分前に外出していて、今は消息不明なんだそうだ」
「誰だ、そいつは」
「翠星石だって」
 僕たち三人は顔をパッと見合わせた。彼女だったら、やりかねない。
「よし、すぐにパパにこのことを伝えておこう」
 スネ夫が慌てて携帯電話を再度取り出そうとしたとき、店員がジャイアンのアイスフロートを持ってきた。彼はアイスフロートをジャイアンの前にドンと置き…
 僕は一瞬、自分の目とメガネを疑った。しかし、メガネが曇っているようには見えないし、目もどうやら正常のようである。しかし、もし正常なら、この目の前の光景はなんなのだ。
 僕がアイスフロートと思っていた物体は、なんと巨大なダイナマイトだったのだ。まだ導火線には点火されていないが、もしも爆発したら僕達はおろか、この店はひとたまりもないであろう、巨大なものである。ボーっとしていたジャイアンは導火線をストローと間違えて咥えた瞬間にようやく気がついて、ワッと叫んで慌てて口を離した。スネ夫もその声で異変に気づき、ハッと息を呑んだ。

 その直後、カウンター席の方でで悲鳴が上がった。見ると数人の店員が、巨大なマシンガンをこっちに向かって構えていたのだ。店員達は口々に『立て』『向こうへ行け』『あっちへ行け』と、客を隅に追いやり始めた。
 銃口は僕達の方にも向けられたので、僕達も慌てて手を上げて立ち上がり、彼等の指示通りに店の隅にとんで行った。珍しくスネ夫が泣き言を漏らさないなと思っていたら、なんとスネ夫は凄まじい恐怖心から気が遠くなり、ゾンビの如く半死半生の目で、無意識に足を動かしているだけであった。僕は慌ててたった今倒れそうになった彼の肩を持ち、なんとか支えて店の奥に座らせた。VIPルームからも、ママや犬夜叉やじーさんや近衛氏がぞろぞろと手を上げながら出てきた。

 テロリスト達のリーダー格らしい男が、マシンガンをバララララと天井に向かってぶっ放したので、僕ら一般客は大いに腰を抜かして、床にしゃがみこんだ。そして彼が威嚇射撃を撃ち終わると、真っ先に誰かが立ち上がった。見ると、それは逮捕されたはずの坂田銀時である。恐らく脱走してきたのだろう。
「ふん」
 と、彼は全て悟ったという顔で鼻を鳴らした。そして、リーダー格の顔を睨む。
「やっぱり、お前は」
 リーダー格の男はニヤリと笑う。その次の瞬間、彼は自分のほっぺたを鷲づかみにして、ぐいと上に引っ張り上げた。男の頭の皮がずるりと滑ってバナナの皮の様に向けて、男はそれをホイと放り投げた。その下の顔は、何と高杉晋助だった。客はほぼ全員腰を抜かした。
 それに続いて周りのテロリスト達も、次々にマスクを脱ぎ捨てた。岡田似蔵、来島また子、武市変平太、河上万斉。何ということだ。テロリストの正体は鬼兵隊だったのだ。
「今頃気づいたか」
 と、高杉が声を張り上げる。そしてフフフと笑い、坂田の頬をつねった。
「いつぞやはどうもありがとう、坂田クン」
 へっへっへ、と、周りのテロリスト達が下品な笑い声を漏らした。
「聞け、愚民共」
 高杉が叫ぶ。
「たった今からこの街の占有権は、我々のものだ」

「えらいことに巻き込まれたなぁ」
 ジャイアンが声を震わせつつ言う。
「ちょっと」
 僕はぎょっとした。ママが口を出し始めたのだ。どうやらここ最近の件で、怖いもの知らずになったらしい。
「練馬区町内会は、テロなんかには屈しないわよ」
「ふん」
 高杉は構わない。
「お前らは万が一の為の人質だ。漫画の登場人物全てを、我々に服従させるためのな」
「じゃあ、他の場所でもテロを起こすのね」
 ママは問い詰めるような口調だ。
「あなた達のほかにも、テロリストがいるっていうこと!?」
「ちょっとだまくらかせば、みんなホイホイ犬みたいに言うことを聞く」
 高杉は嘲笑った。
「今の練馬区町内会をひっくり返そうと勧誘したときには、どいつもこいつも喜んで賛同したからなぁ」
「練馬区にはGKPTがいるわよ」
 ママは少し目に余裕を持って言った。しかし。
「GKPTも、今頃は我々の支配下だ」
 と、高杉は答えた。
「なんですって」
 ママは目を丸くした。ママだけではなく、人質となった人々も全員、驚きを隠せない。

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18.第二部隊全滅

「部隊長、部隊長」
 GKPT第二部隊の隊員の一人が、慌てて公園脇の道に止まっているバスの中に駆け込んだ。
「なんだね、何かあったのかね」
 後部座席に座っていた部隊長は、間延びした声で言った。
「それが、ロードローラー作戦中に、隊員の一人が反乱を起こしました」
「なんだってっ」
 部隊長は流石に驚いて立ち上がった。
「誰なんだ、その反乱を起こした隊員は」
「それが、先日派遣されてきた新人です」
「まさか朝倉か」
 部隊長は見る見るうちに真っ青になった。
「ひょっとして、ナイフを使って」
「そうです」
「大変だ。で、どうなった」
「それが、誰も止めることが出来なくて、僕だけ慌てて逃げてきたんです」
「うわ、それじゃあまだ奴は」
「どんどん隊員たちを刺し殺しています」
 部隊長は慌てて窓から辺りを見回した。すると公園の奥のほうから、たった今浴びたと思われる新鮮な返り血を浴びた朝倉涼子が、どこかしら不気味な笑みを浮かべつつこっちに向かっているのが見えた。
 わっと部隊長は絶叫して、鉄砲玉より早く運転席に飛び込んで、エンジンをかけた。
「は、は、は、早く逃げなくては」
 部隊長はバシとボタンを押して乗降口を閉じ、慌ててバスを発進させた。立っていた隊員がつんのめりかけて何とか持ちこたえた。
「はあ。早く遠くへ。遠くへ」
 部隊長は赤信号も無視して交差点を突っ切り、ただただスピードを上げようとした。しかしその直後、ブレーキも踏んでいないのにバスが急停車した。隊員が遂に耐え切れずひっくり返った。
「あ、何だ」
 部隊長は慌ててアクセルを踏む。しかし、バスは一ミリたりとも動かない。ハンドブレーキもかかっていないし、エンジンも動いているのに、タイヤが回らないのだ。
「しまった。情報操作か」
 部隊長はバスを放棄して逃げようと立ち上がろうとしたが、どういうわけかバスと同様、体も動かない。
「部隊長、体が動きません」
 ひっくり返ったままの隊員が絶叫する。
「うう、くそ。万事休すか」
 しばらくして、バスの乗降口が、ボタンも押していないのにゆっくりと開いた。そして血塗られたナイフを手にした朝倉涼子が、ゆっくりとステップを昇って…

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19.先生動揺

 この日の同じ時刻、○×小学校の大会議室では、GKPTの幹部や練馬区町内会の上層部の面々が、月に一度のミーティングを行っていた。
「GKPT第四部隊では、裏山大通りにたむろする外漫画人犯罪者二百三十八人を収容しました」
 GKPT第四部隊隊長、岡部氏はハンドボールのユニフォームを畳みながら言った。
「それから、ライトノベルや特撮系列から派遣されてきた隊員達も、それなりに活躍しております。この間も三塚井という隊員が、一人で大池公園周辺の外漫画人犯罪者を一掃いたしました。あと、裏山近辺なんですが… あの辺りは特に凶悪な外漫画人犯罪者が多くうろついてるそうなので、なかなか手を入れにくいのが現状です。できれば、火器の増強を行いたいのですが」
「ううむ」
 のび太の先生が難しい顔でうなづく。その時、会議室の扉がバタンと開いて、廊下から転がり込んでくるように校長が現れた。
「どうしましたか」
 先生が仰天して問う。
「た、た、た、大変です」
 校長が必死でつっかえながら言う。
「GKPT第二部隊からの連絡が途絶えました」
「何だって」
 先生が驚きの声を上げる。
「何があったのかわからないのか」
「それが、無線で途中まで聞き取れたんですが。どうやら隊員の一人が反乱を起こしたそうです」
「それしかわからないのか」
「はい。あとは聞こえてきたのは、隊員達の悲鳴とか、やめてくれ、とか、いてえ、とか、ふともも、とか」

 そこへ、コンコン、と誰かが会議室のドアをノックし、校長は床から二メートル程飛び上がった。
「だだだだ誰だ」
 校長がおっかなびっくり言うと、二人の外漫画人メイドが現れた。カートにティーカップを満載している。
「紅茶が入りました」
 と、一人が言った。
「外漫画人メイドを雇ったのかね」
 校長が抜かした腰を自分で戻しながら、先生に問う。
「ええ。ついこの間、そちらさんから志願してきたんですよ」
 その時、ヒュッと何かが風を切ったと同時に、スイカを包丁で割ったような、パキャッという音が会議室に響いた。そこにいた全員が一斉にそっちを振り向くと、ドアに一番近い位置に立っていたオールド・オスマンの頭に、巨大な鉈が額の辺りまで、深々と食い込んでいた。オスマン氏はしばらく口をぱくぱくさせていたが、間も無く彼は足の方からガクリガクリと体を折り曲げ、床にぶっ倒れた。どす黒い血がどくどくと流れた。
 数人が甲高い声で悲鳴を上げた。その直後、外漫画人メイドの一人が天井に向かってマシンガンをバラララララとぶっ放し、会議室にいたGKPT幹部や練馬区町内会は一斉に手を上げると共に、沈黙した。
 もう一人のメイドが、オスマン氏の頭に突き刺さったままの鉈をずぽっと引っこ抜いた。そしてメイドの二人はほぼ同時にメイド服を脱ぎ捨て、真の姿を現した。
「あっ。あっ。お前は裏山の鉈女」
 岡部氏が鉈を手にした『元』メイドを指差して言う。
「ああっ。ガード下の吸血鬼」
 第七部隊隊長の坂井 貫太郎が、もう一人の機関銃を手にした『元』メイドを指差して叫んだ。
「動くなっ」
 『鉈女』が鉈を振り回しながら、会議室の面々に向かって言い放つ。会議室が凍りついた。
「お前らはこれから私達の人質になってもらう。今頃は野比玉子とやらも、『本隊』の手中に納まっているだろう」
 『ガード下の吸血鬼』が、凛とした声で言う。のび太の先生は舌打ちした。
「くそ。女だと思って油断していた」

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20.大石巡査

 町内のあちこちで散発的な暴動が発生していて、住民は大パニックに陥った。外漫画人犯罪者の留置所も襲撃され、囚人が全員逃げ出してしまった。練馬区はすぐさま戒厳令が敷かれ、東京中のパトカーが慌てて集まり始めていた。
 練馬区派出所にいた、大石蔵人巡査はてんてこ舞いしていた。何故か唐突に街中で外漫画人犯罪者が大暴れを始めて、その鎮圧がおっつかないのだ。一箇所の暴動を鎮圧させた頃には、別の十箇所で新しい暴動が起きるという不条理さ。キャパシティオーバーもいいところである。たった今もようやく魚雷女を黙らせたところだったが、その間にもどんどん暴動の件数は増えている。
 本庁からも何人か緊急に派遣してくれるそうだが、それまでは有る限りの人員で、被害を最小限にしなくてはならない。散々路頭をさまよい歩き、ようやく一番格下の巡査に就職したと思えば、すぐこの事態。この世界には神も仏も無いものか。
「おい、大石」
 上司の刑事が言う。
「○×小学校で、立て篭もり事件が起こったらしい。練馬区町内会やGKPTの幹部が人質に取られてる。すぐに行って来てくれないか」
「ええ。でもこの状態だから、パトカーは全部出払ってます」
「だったら自転車で行け。それも無かったら走って行け」
「はいはいはい」
 上司に怒鳴られた大石巡査は、慌てて派出所を飛び出した。こんなに走り回ったのは、あの「大災害」以来である。
 学校に向かう途中も、幾たびか暴動を見かけたが、どうすることもできずに無視していった。たった一人で鎮圧させようとしても無駄だからである。パトカーにも何回かすれ違ったが、この非常時に乗せて行ってくれる車はありそうにない。
 途中、大通りに出た。大通りは暴動の影響で大渋滞である。彼は慌てて車と車の間をすり抜け、道を横断する。どの車もひっきりなしにクラクションを鳴らす。大音響である。
 耳を塞ぎつつ、大石はわき道に飛び込む。飛んできたミサイルを避け、アスファルトから突き出した緑の土管を飛び越え、パックンフラワーをなんとかやり過ごし、ようやくそこが行き止まりの袋小路と気づいて引き換えしたりもした。
 学校への道も半ばまで来た時、彼はふと立ち止まった。地面が微かに揺れたような気がしたのだ。辺りを見回せど、暴動は起きているが地面が揺れるような騒動は起こっていないし、ただの地震にしては不自然な揺れだった。しかし立ち止まる暇は無いことを思い出し、彼は再び走り出した。曇った空には、まだあのアドバルーンが浮かんでいる。

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21.ファイト! ドラエース

「おう、おう、そっちも成功したか。ひひひひひ」
 高杉はトランシーバーに耳を当てつつ、嫌な笑い声を上げた。
「聞け。皆の衆。『鉈女』と『闇の福音』が、学校を占拠したそうだ」
 鬼兵隊の面々が歓声を上げた。
「やった」
「やったぞ」
「遂にクーデター成功だ」
 高杉はトランシーバーに続けて言う。
「よし、それじゃあ人質を全員、こっちの喫茶店まで連れて来い。GKPTのバスがあるはずだから、それに乗ってくればいい。できるだけ早くな」
 高杉はカチとトランシーバーの電源を切った。
「ようし、これでクーデターは最終段階に入った。あとは町内会上層部やGKPT幹部に主導権を渡し、連中を始末するだけだ」
「おお、遂に我らもここまで」
「鬼兵隊万歳」
「万歳」
 鬼兵隊が万歳三唱を始めた。悔しいことだが、僕等は黙ってみているしかない。しかしその直後、唐突に状況が転んだ。
 鬼兵隊たちの後に、見覚えのあるピンク色のドアが、どこからともなく現れた。あっ、と僕が叫んだ時、パッとドアが開いてドラえもんたちが現れた。前にいた高杉は、開いたドアに突き飛ばされて前のめりに倒れてしまった。
「どこでもドアがあったのを忘れてたよ。あ、やあ、のび太君。みんな。床に座り込んで何やってんの」
 まだ周囲を良く見てないらしく、ドラえもんはキョトンとした顔でこっちを見る。
「あ、あ、あ」
 僕は突然の事態に返事が出来ない。ドラえもんは何がなんだかわからず、こっちに歩いてきた。
「ぎゃあ」
 高杉が唐突に悲鳴を上げた。見ると、ドラえもんが高杉の腕を踏みつけてしまっている。
「あっ。ドラえもん、足」
「え、ああっ」
 慌ててドラえもんは足を引っ込めたが、一二九.三キロの重量を掛けられた高杉の右腕は、信じられないような方向に折れ曲がっていて、二度と使い物になりそうにない、痛々しい状態だった。
「いてててててて」
 高杉はまだ悲鳴を上げている。利き腕をやられたらしく、もう銃は持てそうにない。あわてて他のメンバーが彼の介護をしようとしたが、その直後状況を飲み込んで反撃した客達に、一斉に袋叩きにされてしまった。店内に怒号と野次と悲鳴が響く。
「このやろ、このやろ」
「もっとやっちまえ」
「くらえ、馬鹿」
「や、や、やめろ」
「やめてくれ」
「痛いいたい痛い」
 そうこうしているうちに、鬼兵隊の連中はどこからともなく持ってきたロープでぐるぐる巻きにされてしまい、次々に積み上げられた。
「くそう。油断してしまった」
 高杉は呻いた。
「うるせえ」
 調子に乗ったジャイアンが高杉の頭を思い切り殴りつけ、気絶させてしまった。

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22.去らなかった危機

「なるほど、そういうことだったのか」
 僕らの説明を一通り聞いたドラえもんが言った。
「とりあえず、主犯格はこれで押さえたわけね」
 静香ちゃんが安堵した声で言う。
「うん。あとはこの、町内の混乱をどうにかしなくちゃ」
「ドラえもん、何か方法はないのか」
「ううん、困ったことに今は、定期検査で道具のほとんどを修理に出してて…」
 ドラえもんは困惑した表情だ。
「どこでもドアは一応あったけど、あとは大した道具が無いよ」
「検査はいつ頃終わるの」
「丸一日かかる」
「それじゃあ遅いんだよ」
 ジャイアンが声を上げた。
「もっと早くできないのか。早くしないと、混乱は大きくなるばかりだぞ」
「あっ。そうだ。早くしないと」
 僕はハッと思い出した。
「学校を占拠したグループが、こっちに向かってるんだった。早く逃げないと面倒だぞ」
「あっ。そうだ」
 スネ夫も思い出したらしい。
「何でそれを早く言わないんだ」
 ドラえもんが悲鳴を上げた。
「とにかく逃げよう」
 僕がそう叫んで逃げようとした途端、外にGKPTのバスが止まったのが見えた。しまった。遅かった。
「裏口から逃げろ」
 ジャイアンが叫ぶ。
「無理だ。あいつらがもう、バスから降りてきたぞ」
 スネ夫がウィンドウの外を指差して絶叫した。バスからはもう、主犯格と思われる女子中学生二人が、人質を従えて降りてきたところで、たった今鬼兵隊が全滅したことを悟ったらしく、二人ともあっと声を上げて驚いているらしい。
「いいから逃げろ」
 ジャイアンが従業員の通路に逃げ込もうとした途端、ウィンドウが凄い音と共に木端微塵になって、今しがた逃げようとしたジャイアンの側にあった鏡が一瞬にして砕け、写っていた景色が崩れ落ちた。ジャイアンはキャッと悲鳴を上げて立ち往生した。
「動くなッ」
 と、マシンガンをぶっ放したほうの女子が言う。客は全員悲鳴を上げた。
「わあ、あれは吸血鬼だ。駅の近くの吸血鬼だ」
 誰かが叫んだ。
「うわああ、もう一人は鉈女じゃないか」
 また誰かが叫んだ。その瞬間僕らを含めた、そこにいた客達は一斉に悲鳴を上げて、今ジャイアンが逃げ込もうとした通路に逃げ込み始めた。立ち往生していたジャイアンが、他の人にドンと突き飛ばされて、看板のようにぶっ倒れた。その上を、パニックに陥った何十人もの客が絶叫しながら逃げていく。
「しっかりしろ、ジャイアン」
 僕とドラえもんで、何とかジャイアンを支えて、キッチンルームに連れ込んだ。
「くそう、折角助かったと思ったのに。まだ残党が残っていたとは」
 ジャイアンが苦しそうな息で言う。僕らの後ろからは、まだあの吸血鬼が威嚇射撃をしている。

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23.終末の始まり

 ただなんとなく感じていた、大石の勘は外れていなかった。学校には人っ子一人いないことはおろか、何も起きていなかったのように平然としていた。唯一つ、会議室だけは机や椅子が乱雑としていたが、後は何も異常な箇所は見あたらない。死体らしきものもない。金庫が強奪された痕跡もない。どこかに監禁されたのではないかと思って、校舎を一通り見回ってみたが、何も無かった。体育館もモヌケの空。職員室も誰も居ない。校舎を出て校庭も回ってみたが、鳥五、六匹と猫二匹の他は何もない。駐輪場も空。しかしただ一つ、駐車場だけは手がかりがあった。マイクロバスのものと思われる、新しいタイヤ痕があったのだ。駐車場が舗装していなくて助かった。しかし、そのタイヤ痕は校門から道路に続いており、当然ながらアスファルトにタイヤ痕はついていなかった。やはりもう逃げられたか。大石は舌打ちした。
 彼が諦めて学校から離れ、大通りに出た途端だった。突然、スイッチを切ったかのように、空が暗転した。虚を突かれた住人達は驚くまでに数秒を要した。
「なな、なんだ」
 大石は素っ頓狂な声を上げた。辺りも騒然となる。
「なんだなんだ」
「皆既日食かしら」
「そんな馬鹿な」
「スモッグじゃないか」
「UFOの襲来だ」
「電池切れだ」
「枝豆だ」
「空豆だ」
 大石が唖然としていると、さっき感じたものに似た揺れが、再び彼に襲い掛かった。しかも先ほどのものに比べて大きい。
「おお」
 思わず口から声が出た。次の瞬間、揺れが極端に大きくなって、練馬区全体を激しく揺さぶり始めた。
「おわあ」
 彼は思わず近くにあった電信柱にしがみついた。必死に開けようと努める彼の目には、凄まじい光景が映し出された。
 見る見るうちに、商店街の建物という建物が崩れていく。まるでミニチュアの如く、あっさりと崩れていく。目の前を走っていたトラックがハンドル操作を誤り、歩道に思い切り乗り上げ、乾物屋に猛スピードで突っ込んだ。辺りは煎餅の雨霰。歩道を歩いていた人々はほぼ同時にぶっ倒れ、必死に地面をのた打ち回る。そのうち道路に亀裂が走り、その開いた空間の中に、八百屋のスイカがゴロゴロと転がり込んだ。電信柱が一本、地割れ目掛けてぶっ倒れた。
 彼が見たのは、そのときである。自分の頭目掛けて落ちてくる、今しがた千切れたのであろう高圧電線の切れっ端を。バチバチと、凄まじい勢いで火花を散らしながら。

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24.パニック! パニック! パニック!

 

 僕達を含めた客はみんな通路からキッチンルームに逃げ込んだ。そこまではいいが、どういうわけか勝手口のドアが開かないらしく、みんなパニック寸前の表情で右往左往している。
「きっといつも使ってないから、外に荷物が置いてあるんだ」
 パパが言う。
「じゃあどこから逃げるのよ」
 ママがヒステリックに叫んだ。
「キッチンルームからじゃ逃げられないよ。通路に出て、他の出口を探そう」
 スネ夫が悲鳴混じりにそう言って、さっき入ってきたドアを開けた時、ドーンと何かに突き転ばされ、後方に倒れた。えぴ、と弱弱しい声を上げて、彼はキッチンの奥に滑り込んだ。
 その直後、バスの中にいたらしい人質達が、凄まじい形相で一斉に、今しがた開かれたドアからなだれ込んできた。主犯格の二人の隙をついて逃げ込んだらしい。しかし彼女達もまた、彼等の後ろから追いかけているに違いないのだ。
「何をやってんだ。早く行け」
 扉の前で立ち往生した男性に向かって、学校の先生の声が響く。
「ハンドボールのユニフォームが引っかかった」
 男性が喚く。
「早くしないと、マジにまずいですぞ」
 どういうわけか頭を糸で縫い合わせてある老人が言う。
「やつら、すぐそこまで追いかけてきている」
「ええい、この」
 先生はそう呻いてハンドボール馬鹿の男性を突き飛ばし、強引にキッチンへの道を開けた。ユニフォームは音を立てておっ裂けた。
「何しやがる」
 男性が絶叫する。そこへ突拍子も無く廊下の方からマシンガンの弾が飛んできて、男性の目頭をかすめた。
「わっ」
 男性は思わずのけぞった。弾丸は男性に当たることなく直進し、作業テーブルの上の鍋を吹っ飛ばし、床に置いてあった発泡スチロールの箱にボスンと穴を開けて飛び込んだ。弾丸の当たった鍋は勢い余って高く宙に舞い、銀色の放物線を描きながら先生達の方に飛んでいった。
「危ない」
 先生と近くにいた数人はハッとしゃがみこんだ。その頭上を回転しながら鍋が飛んでいく。そこへさっきの吸血鬼が出し抜けにキッチンに入ってきて、鍋は彼女の顔面に命中した。
「ぶっ」
 彼女は卒倒した。
「今だ。取り押さえろ」
 今まで存在を忘れられていた手塚が叫んだ。
「そうはいくか」
 もう一人の鉈女の声が響く。扉の近くの客達がわっとこっちに飛び退いた。そのすぐ後に女が現れる。僕らも慌てて退却する。
 女はぶんぶんと鉈を振り回しながら、僕らを隅に追いやっていった。一箇所に集めて、細切れにするつもりなのか。
「ドラえもん、どうにかならないのか」
 ジャイアンがドラえもんに向かって叫ぶ。
「こ、こんな状態だからどうしようも」
 ドラえもんはオロオロ声だ。

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25.ドラえもんも打ち切り!?

「むひ、むひ、むひひひひひひひ」
 唐突にどこかで聞いたような声が聞こえて、僕らははっと顔を上げるた。
「あっ。出木杉」
 今目を醒ましたスネ夫が叫ぶ。女もギョッとして鉈を振るうのを中断した。辺りはしいんと静まり返った。
 出木杉は幼児が遊ぶような、アンパンマンの顔のついたゴーカートに乗りながら、キッチンの中に入ってきた。むひむひと力無く笑い続けながら、手にした『よいこのびいる』をぐびぐびと飲んでいる。その様相にはかつての優等生としての趣は見られず、髪はぼさぼさ、しわくちゃで汚れた服をだらしなく着て、という見苦しい格好である。そして彼は僕らの前までやってきて、どっこらしょと言って立ち上がり、僕らに向かって話し始めた。
「諸君。もうこのことを機密事項にする必要は無い。ドラえもんは、これでおしまいだ」
 ええっ… と、みんなで同じ声を上げた。
「おしずかに。日本、いや、商業誌の漫画はこれで終わり。ジ・エンド」
 誰も声を上げるものはいなかった。出木杉以外は。
「ふむ、僕の所属する団体ではね、現実世界の情報をリアルタイムで入手している。そして今日の朝目新聞の朝刊に載っていたそうなんだが、KKKKが、『ドラえもん』に大量に外漫画人が逃げ込んで『ドラえもん』の中で活躍することになっていたので、これじゃあ前と変わらないからと言って、『ドラえもん』も打ち切りにすることに決めたんだそうだ」
「え、え、え」
 僕らは驚きのあまり物も言えない。
「ええ、ど、どうにかならないの」
 ドラえもんが懇願するような声で言う。
「馬鹿。もう決定事項だ。今更どうにかなるものか」
 出木杉が冷たく言い放った。
「そんな簡単に、この漫画が終わるの」
 ママが言う。
「それじゃあまるで、この世界は夢や幻みたいなものじゃないか」
 と、(いつのまにか復活している)吸血鬼。
「その通り」
 出木杉がニヤリと笑う。一同、絶望的な顔色になる。出木杉は演説を再開した。
「まあね、もともと漫画やアニメなんてものは、せいぜい長く続いて、四年や五年で終わってしまうような、夢や幻とおんなじようなものであって、もともとこの『ドラえもん』という漫画だって、本来ならば、二十年も三十年も長続きするなど出来るはずもない、あやふやな存在だったのである」
 うむ、と彼はうなずいて、
「以上、これでお終い」
 と言ってぶっ倒れた。入江というネームプレートを付けた医師らしき人物が、出木杉に駆け寄った。
「急性ノンアルコール中毒だな」
 彼は言った。
「ご臨終様だ」

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26.もはや これまで

 と、次の瞬間。キッチン全体が急にシェイカーに掛けられたかの如く揺さぶられ始め、僕らは一斉に悲鳴を上げながら尻餅をついた。鉈女も思わず鉈を取り落とし、床に仰向けにぶっ倒れた。吸血鬼の方も激しく転倒して、また顔面をひどく打ちつけた。
「ペッパー」
「痛ぇ」
「ガスト」
「そぉい!」
「メメタァ」
「ぬふぅ」
 悲鳴と怒号と騒音が混じりあい、僕の鼓膜は破砕寸前だった。揺れが少しずつ収まってきた頃、これがただの地震ではないことを悟った客達は一斉に出口に向かって走り出した。
「逃げろや逃げろ」
「早く早く早く」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」
「死んじまうー♪」
「早くしろ」
「知らないアルよ」
「あと五分」
 吸血鬼と鉈女も逃げ始め、ジャイアン、スネ夫、パパとママも、慌てて出口に向かって走り出した。僕とドラえもんと静香ちゃんは、仕方無しに出木杉を置いて逃げることにした。
「出木杉、出木杉」
 必死に僕は彼に向かって呼びかける。しかし、彼はただ、床にぶっ倒れているだけで、全く動く気配を見せなかった。

 キッチンからどうにか脱出したはいいが、どういうわけか客席の方は人ごみでごったがえしている。どうしたのかと思えば、揺れのショックで喫茶店のシャッターが全て閉まって、脱出できないというのだ。玄関だけでなくショーウィンドーのシャッターまで閉まっていて、しかもさっきの揺れで喫茶店の屋根が傾いて、シャッターが開かないのだそうだ。
 客達はパニック状態でシャッターを叩きまくる。しかし叩いても開くわけがない。そのうち誰かが『あっちだ』と叫んで、また従業員の通路に逃げ込もうとして、他の客もそれに続いた。
 しかしその直後、さっき縛り上げたはずの鬼兵隊が、銃を構えて僕らを威嚇し始めた。僕らは慌てて手を上げる。
「うわぁああぁ」
「ばかばか、撃つんじゃないぞ」
「あろまんちゅ」
「動くな」
 高杉はそう叫んで、慣れない左腕でマシンガンを天井に打ち込み始めた。思わずしゃがみこむ僕ら。しかしその直後、ピタリと銃声がやんだ。高杉はトリガーを引き続けている。おや、と彼はマシンガンに目を落とす。弾切れだ。
 その隙をついた両津勘吉と脳噛ネウロと金髪アフロのシンガーとパパが、一斉に鬼兵隊に飛び掛った。一瞬の隙を突かれた彼らは、一発の弾丸もぶっ放すこともなく、四人に一斉に袋叩きにされた。
 唐突にガラスの割れる音がして、びっくりしてそっちを振り返ると、ママが白目をひん剥いて体をくねらせていた。後ろには近衛氏が、割れたウィスキーボンボンの瓶を持って立ちすくんでいた。近衛氏がパチンと指を鳴らすと、ママはそのまま床にばったりとぶっ倒れた。瓶で殴りつけられたのだ!
「どうせみんな、死ぬのだ死ぬのだ」
 そういって近衛氏は、これまでの恨みをぶつけるかのごとく、ママを丸めた週刊誌で滅多打ちにし始めた。すると犬夜叉までも加わって、ママの顔面にパンチを食らわせ始めた。
「いんばりくさりやがって、このこの」
 慌てて僕らが二人を押さえ込む。離せ、離せと連中はもがいた。
 あっちのほうでは、男が女を追い掛け回し始め、こっちでは乱闘、こっちでは泣き声の大合唱、てんやわんやの大騒ぎ。もう僕の耳からは血が流れ出していて、気が狂うかと思われた。
 また激しく店内が揺れ始めた。また全員がほぼ同時に転倒した。
「ジョナサーン」
「ちゅぱっ」
「ぺさー」
「ぬっちゅー」
「うぐぅ」
 電線が切れたらしく、店内の照明が全て消えてしまった。揺れが収まった頃の闇の中で、客達は口々に言った。
「わっ、真っ暗だ」
「ストップストップ」
「水無し一錠」
「おい、明かりはないのか」
「懐中電灯だ」
「ダメだ、電池が切れた」
「寺の坊主でもいいぞ」
「そんなやついるか」
「待てっ。ろうそくが一本あった筈だ」

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27.最終回の明かり

 数秒の闇の中の混乱の後、沈黙の中、ろうそくに火が灯された。その周りにみんなが集まる。
「びゅーてぃふる」
 坂田銀時の声。
「さっきまでの動乱が、まるで嘘のようだな」
 鼻血が出たらしく、鼻に詰め物をしながら、吸血鬼が言う。
「これが日本の漫画の中で、最後のシーンになるのか」
 パパが穏やかに言った。
「そう…」
 僕とドラえもんの肩に、だれかが手を置いた。振り返ると、出木杉であった。僕らは少々仰天したが、もう驚くこともどうでもよかった。
「日本の漫画はこれでお終いだ。全部、打ち切りだ。 しかし……」打ち切りは、新連載の始まりでもある」
 それを聞いたみんなは、ゆっくりと微笑みながら、たった一つのろうそくの光を眺めていた。愛でるような目で、ペン先でつついたような、小さな小さな光を。僕らは、その光の延長線なのだ。みんな、同じ。 そこに、声は存在しなかった。あるのは、ただ、一人ひとりがしている息の音だけ。


 日本の漫画が全て打ち切りになるちょっと前、初めて日本の漫画界から、人気取り競争というものが消滅した。


 そしていよいよ、再び辺りはグラグラと大きく揺れ始め、 辺りは再び騒然となり始めた。ガラスの割れる音、酒瓶が落ちるて床で撥ねた音、柱にヒビが入る音、天井が崩れ落ちる音。

 

 ろうそくの光が、ふっとかき消された。

 

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33.「あとがき」〜ドラえもん以外全部打ち切りのテーマ〜
作詞・作曲 青山順一
 

愛する読者(ひと)よ 僕はあなたを愛していたんです
あなたは今なにを読んでますか? それとも読んでませんか?
あぁ こんな事になるなら アニメ化しておけば良かった

この想いはこの漫画と 共に消えるのか
打ち切りは新連載の始まり 消えてたまるもんか

でっかい夢(アニメ化)が僕にはあった いや今でもあるさ
あなたは鼻で笑うでしょう でも本気です
あぁ こんな事になるなら ゲーム化しておけば良かった

この願いはこの雑誌と 共に消えるのか
廃刊は創刊の始まり 消えてたまるもんか

もしも僕のいるこの漫画 どんな風貌(かたち)であれ残っているなら
愛する読者(ひと)の本棚の 中でずっと一緒にいたいものだ
もしも編集長がいるのなら 僕のでっかい夢(アニメ化)の一部始終を
全部覚えていてください 忘れないでいて下さい

この想いはこの漫画と 共に消えるのか
打ち切りは新連載の始まり 消えてたまるもんか
打ち切りは新連載の始まり 絶対消さねえぞ

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34.スタッフロール

 

ドラえもん 大山のぶ代

 

野比のび太 小原乃梨子

 

源静香 野村道子

 

骨川スネ夫 肝付兼太

 

剛田武 たてかべ和也

 

野比玉子 千々松幸子

野比のび助 中庸助

先生 田中亮一

校長先生 大塚明夫

神成さん 渡部猛

出木杉英才 白川澄子

 

越前リョーマ 皆川純子

手塚国光 置鮎龍太郎

犬夜叉 山口勝平

じーさん 中村大樹

近衛近右衛門 辻村真人

 

喫茶店の歌手 子安武人

マリオ・ルイージ Charles Martinet

オーキド 石塚運昇

高畑・T・タカミチ 井上倫宏

脳噛ネウロ 子安武人

肥満児 大谷育江

ドラム缶 若本規夫

フルメタル蛙 渡辺久美子

水銀燈(翼の女性) 田中理恵

国会議員 石井康嗣

坂田銀時 杉田智和

志村新八 阪口大助

ジャガージュン市 藤原啓治

至郎田正影 伊藤健太郎

 

記者1 服部楊介

記者2 小森谷撤

記者3 梨本勝

記者4 渡邊好明

桶狭間 FROGMAN(小野 亮)

KKKK団員 東京都公立小学校PTA協議会の皆様

 

GKPT女子隊員1 千葉紗子

GKPT女子隊員2 茅原実里

GKPT第二部隊長 三浦 敏和

隊員 鈴木 崇大

岡部氏 柳沢 栄治

オールド・オスマン 青野武

 

高杉晋助 子安武人

岡田似蔵 青山穣

「鉈女」 中原麻衣

「吸血鬼/闇の福音」 松岡由貴

 

大石蔵人 茶風林

入江京介 関俊彦

 

脚本 サイボーグ和クロ

音楽 青山順一

撮影 熱血観戦の男

照明 クリリン

録音 サウンドレコーダー

美術 サイボーグ和クロ

編集 サイボーグ和クロ

 

装飾 及び 美術製作 日本デコレーション軽トラック協同組合の皆様

素材協力 ミニドラカンパニームービー部門

ヘア&メイク ミニドラカンパニー化粧品部門

衣装 骨川スネ夫

照明助手 亀仙人

美術助手 骨川スネ夫

 

車両 TATOYO

 目産

 

現像及び整音等 ミニドラカンパニー ムービー部門

 

エンディングテーマ

「あとがき」
〜ドラえもん以外全部打ち切りのテーマ〜

作詞・作曲:青山順一
        歌:アオヤマ書店

発売:ミニドラミュージックレコード

 

撮影協力

喫茶店 Mr.N

○×商事新聞社

○×小学校

中学館

練馬区民体育館

西武鉄道 及び 東京都交通局

ハイツ ゲルニカ

石九電気

練馬区アーケード街協同組合

加工自由な風景写真 賑町笑劇場写真素材分室

世界と日本の白地図素材

 

美術協力

坊主サウンド

ネズミ・コンピュータ

そうごう練馬店

Hard bank

SQNY

剛田雑貨店

 

協力

ミニドラカンパニー

Wikipedia

遊ドラ心

 

配給

有限会社2ちゃんねる

遊ドラ心

 

宣伝

有限会社2ちゃんねる

ミニドラカンパニー

 

製作

「ドラえもん以外全部打ち切り」製作委員会

有限会社2ちゃんねる

Wikipedia

ミニドラカンパニー

 

脚本 サイボーグ和クロ

原典 筒井康隆

原原典 小松左京

原作 サイボーグ和クロ

 

 

監督 サイボーグ和クロ

 

 

 

(C)「ドラえもん以外全部打ち切り」製作委員会


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28.ある日のチャット

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金麻呂A :そういや、『ドラえもん』の打ち切りから一ヶ月経つねィ 1:10
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ヴァーツ :さふいふことになるかな 1:10
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サイボーグ谷口 :漫画の無い生活にもだいぶ慣れちゃったなあ 1:11
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金麻呂A :アニメも無くなったから 1:12
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金麻呂A :俺達の娯楽はすっかりなくなっちゃったんだよね 1:12
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金麻呂A :蒼星石 カムバーック 1:14
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サイボーグ谷口 :銀様 カムバーック 1:17
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金麻呂A :銀様… 1:17
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トロロ :そういえば 1:20
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トロロ :連中はどうしてる? 1:21
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金麻呂A :ああ 1:21
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金麻呂A :まだ投稿掲示板でドンチャン騒ぎをやってんじゃないかな 1:21
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サイボーグ谷口 :まぁ騒ぎをやってくれたほうがいいやね 1:22
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サイボーグ谷口 :今は。1:23
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サイボーグ谷口 :『ドラえもん』が今後も存在するには 1:23
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サイボーグ谷口 :二次著作に頼るしかないのだ 1:24
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金麻呂A :じゃあ俺も 1:24
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金麻呂A :蒼星石の小説書くかなあ 1:24
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ヴァーツ :書いてもいいけど 1:24
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ヴァーツ :あんまり大掛かりにならないようにしないと 1:25
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ヴァーツ :KKKKに捕まって大変なことになるぞ 1:25
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金麻呂A :んんん 1:25
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金麻呂A :面倒だなあ 1:26
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サイボーグ谷口 :この調子だと近々 1:26
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サイボーグ谷口 :同人誌のほうも規制されるんじゃないかね 1:26
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トロロ :日本オワタな 1:27
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金麻呂A :アメリカにでも逃げようか 1:28
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トロロ :あっちでも 1:29
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トロロ :KKKKが支部を作ろうとしてるらしいぞ 1:29
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ヴァーツ :えええええ 1:30
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ヴァーツ :参ったな 1:32
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サイボーグ谷口 :いや、確かあっちでは 1:32
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サイボーグ谷口 :KKKKの活動に違憲判決が出て 1:32
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サイボーグ谷口 :KKKKは撤退したはずだ 1:33
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金麻呂A :流石アメリカ! 俺達に出来ないことを平然と(ry 1:33
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サイボーグ谷口 :でも今度はイギリスの方にも支部を作るそうだよ 1:35
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ヴァーツ :国際的陰謀ってレベルじゃねぇぞ! 1:35
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トロロ :誰か止めに入らないのかなあ 1:37
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金麻呂A :無理だろう 1:38
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金麻呂A :今はKKKKに逆らうと、即刻暗殺される時代なんだし 1:38
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金麻呂A :暗殺されたとしても、容疑者は日本中の子持ちの主婦だ 1:39
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金麻呂A :犯人がわかるわけがない 1:39
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29.一応の平安

「はぁ、ただいま」
 のび太が靴を脱いだ後に枠をまたいで、白いスペースの中に入ってきた。
「おかえり、のび太君」
 ドラえもんが答える。
「ママの具合は」
 のび太はリュックサックを下ろしながら言う。
「入江さんの話だと、まだ安静にしておかないと駄目だって」
 ドラえもんは白いスペースの隅で、床に就いている野比玉子を指差した。
「でも、だいぶよくなってきたみたい。瓶が地震の衝撃でヒビが入っていたこともあって、衝撃が弱かったんだって」
「そうか、それは何より」
 のび太はスペースに腰を下ろした。
「で、どうだった」
 ドラえもんは尋ねた。
「どこか受け入れてくれそうな同人誌はあったかい」
「それがさあ」
 のび太は困惑した表情で言った。
「ろくなところが無いよ。今の同人誌って、どこへ行っても成年物ばかり。一般のカテゴリに入る同人誌って、凄く少ないんだよね。その上、もうすぐ同人誌の方も規制されるって話だから、入ったところで意味が無いよ」
「むぅ」
 ドラえもんは悲しげに唸った。
「ライトノベル勢はいいなあ。あいつら、あの世界が崩壊した後、すぐに逃げ帰っちゃったからなあ」
 のび太が恨めしそうに言った。ドラえもんがやや絶望的な声で言う。
「ギリギリ何とか二次著作の世界に逃げ込めたけど、このままだと運命は変わりそうに無いなぁ」
「そういうこと言わないでくれよ」
 のび太が顔をしかめた。
「考えたくも無い」
 しばらくの嫌な沈黙。


30.哀しきボーイズ・ラブ

 やがて、のび太が口を開いた。
「そういえば、ジャイアンとスネ夫、静香ちゃんは」
「ああ、みんなは」
 ドラえもんが慌てて答える。
「近場の様子を見てきたり、同人誌掲載のためにサークルの方に頼み込んだりしてるよ」
「近場?」
「ああ、『外漫画人』だった人達の様子を見に行ってるのさ」
「元『外漫画人』か」
 のび太が、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういえばさっき、とあるサークルの同人誌上で、越前リョーマと手塚国光を見たっけ」
「へぇ」
 ドラえもんが少しだけ口元をゆがめた。
「どんな様子だったかい」
「かわいそうに、いい腐女子の見世物だ。掘り合いだよ」
 のび太が光景を思い出して、顔色を青くした。
「しかも話だと、こうなってから毎日、ずっと『やら』されてるんだってさ。おぞましいったらありゃしない」
「ははは、どうりで座薬が高騰してるんだ」
 二人はしばらくゲラゲラ笑った。


31.その他のその後

 丁度そのとき、ジャイアン達ご一行が帰ってきた。
「おう、ただいま」
 と、ジャイアンが声を張り上げる。
「あ、おかえり」
「おかえり」
 二人は座布団を用意した。
「まぁ、座れよ」
 と、のび太が促した。
「ん、サンキュ」
「ああ、疲れたなあ」
「そうね…」
 三人は次々に腰掛けた。

 五人はスペースの中央に集まって、談笑を始めた。
「どうだった、みんな。外の様子なんかは」
「ああ、まず始めに、マリオ兄弟を見かけたんだっけ」
 スネ夫が茶をすすりながら言った。
「かわいそうに、乞食になってしまったんだ。あいつら。藁でできた服をかぶって、道端にうずくまってたよ。しかも時折、クリボーやノコノコなんかがやってきて、あいつらにパンチを一発づつ食らわせるんだ」
 スネ夫は気の毒そうな顔になった。
「哀れだよな、『元』正義のヒーローってやつは」
「そういえば、ネウロも見かけたっけ。ほら、脳噛ネウロ」
 ジャイアンがはっと思い出した。
「ああ、あいつか。あいつどうなったんだ」
「あいつも悲惨だよ。一連の騒動で、性格だの性癖だのが全部逆転してしまったからな」
 ジャイアンも哀れみの表情である。
「メジャーな同人誌からは下ろされてしまった。一般向けからの仕事も無くなって、後はせいぜい、SM物の奴隷役くらいだ」
 ジャイアンは戸棚からせんべいを取り出しながら言う。
「ひょっとしたら、一番変化があったのはあいつかもしれねえぞ」
「まぁいいのさ」
 僕はジャイアンからサラダせんべいを貰いながら、
「僕に言わせればいい気味だ」

「そういえば、テロリストの連中は見たかい」
 ドラえもんが聞いた。
「ああ、見た見た」
 スネ夫が買ってきたチーズケーキをフォークで切りながら言った。
「鬼兵隊は物乞いミュージシャンをやってる。誰も何もやらなかったけどな。あと例の二人組みは、のうのうと二次著作で活躍してたよ」
「まぁ、二人とも女の子だからな」
 ジャイアンが煎餅を齧りながら話す。
「まだ、あれくらいの年頃の女性キャラクターは需要がある。だから今は、女性の方が稼ぎやすいのさ」
 ジャイアンはお茶を啜った。
「聞いた話だと、ローゼンだのの登場人物は、徒党を組んで活躍しているらしい。おかげですっかり財力を蓄えたて、財閥まであるそうだ。でも、それに比べて俺達みたいな野郎共は」
 はぁ、とため息。
「そういえば、静香ちゃんは丁度いいサークルとか見つけたの」
 のび太が尋ねる。
「ダメ」
 と、静香は首を振った。
「ろくなところが無いわ。一般物は人気が高すぎて入れないし、成人ものはダメだって言うしで、どこにも入れないのよ」
「静香ちゃんに成人物は危険過ぎるよ」
 ジャイアンが戒めた。
「例の二人組みは、ポジション的に『攻め』の立場にあるけど、静香ちゃんはなあ」
「そうだよ。やめといたほうがいいと思うよ」
 ドラえもんも賛同した。
「じゃあ、誰が出稼ぎに行くんだよ」
 スネ夫が一言。みんな、うーんと言って黙り込んでしまった。


32.希望

「おうい、みんなみんな」
 のび助の声が響き、一同はやや驚いた。
「大ニュース、大ニュースだ」
 のび助は靴のまま、白スペースに上がりこんだ。
「だだ、大ニュース!?」
 五人はギョッとした。
「そそそ、それはひょっとして」
 のび太が震えた声で言った。
「同人誌封鎖!?」
「二次著作廃止!?」
 一同は口々に言った。
「ち、違うよ」
 のび助はややたじろいで言った。
「これは良いニュースだ。とびっきりの、いいニュースだよ」
 五人は急に黙り込んだ。
「ひょっとしたら、KKKKを打倒できるかもしれない。現状を打破して、元通りの生活に戻れるかもしれない。そんなニュースさ」
 のび助の顔に、笑顔が広がってきた。五人は未だポカンとしている。
「上手くいけば、マンガ雑誌、全部復活だ、わはは、わははは、わはは」
 のび助はその後、三十分ほど躍り上がった。彼の目は、希望に満ち溢れていた。


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