第一話〜謎の男〜

「ドラえもんはいるか」
 机のひきだしから聞こえた声に、ちょうど今から昼寝を始めようと思っていたのび太は少しうっとうしそうに体を起こした。また、ドラえもんが株式会社二十二世紀通販からくだらないものでも買ったんだろうとのび太は思った。
「それにしても、客相手に敬語を使わないなんて、とても無礼な社員だ。後から文句の電話でもしておいてやろう、少しは僕の機嫌もなおるだろう」
 のび太は、昼寝の邪魔をされたため、小声でブツブツ文句を言いながら机の引き出しの中で商品を持って立っているであろう社員に、
「今ドラえもんはいないので、かわりに僕が受取ります」
 と言い、机の横の古びた木製の本棚の下の引き出しからドラえもんの印鑑を取り出し机のひきだしを開けた。しかし、そこにいたのは二十二世紀通販の社員ではなく、タイムパトロールの制服をきた男であった。
「あれ、どうかしましたか?」
 のび太は突然のことに驚いた。そして、ドラえもんの何かあったのかと心配になった。しかし、タイムパトロールの男は
「ドラえもんはいないのか。じゃあいい、お前で」
 と言い、ポケットからピストル型空気砲を取り出し、のび太を狙い連射した。のび太は何のことか分からず、とりあえず部屋の中を逃げ回った。いつもジャイアンとスネ夫に追い掛け回されているため、逃げながら避けることには結構慣れているつもりだ。その普段の特訓の成果か、タイムパトロールの男が撃った空気弾は、のび太には一発も当たらなかった。だが、押入れのふすまや壁には大きな穴が多数あいた。
「うわー、ママに絶対怒られる……」
 そうのび太が嘆いたときだった。のび太は少し走ることを止めてしまった。それを狙ってタイムパトロールの男から撃たれた空気弾は、のび太の足元の畳に命中し、その衝撃でのび太は転倒した。
「い……いったい君は何がしたいんだ。僕らに何の恨みがある」
 少し興奮気味でのび太はタイムパトロールの男に叫んだ。それを聞き、タイムパトロールの男は不気味に笑いながら言った。
「さあ? でもな、未来では今、大変なことが起こっているということは教えておいてやろう。その大変なことというものを引き起こした私たちには、非常 にロボットが邪魔な存在なんだ。そのために、この地球の歴史からロボットというものを消し去ってしまう必要があるんだ。だから、君の親友であるかもしれないドラえもん君は、いずれ私たちに消されてしまう運命にあるんだ。君はそのドラえもん君を消すための人質だ。どうだ、私たちのいうことを理解してくれるかね? 君も人間だろう、私たちの言っていることが間違ってるとは思えないだろう」
「そ……そんな残酷な考え、間違ってるに決まってるよ。ロボットは人間の友達なんだ。そのロボットが邪魔な存在だ何てお前らは狂ってる。僕は絶対にお 前たちの人質なんかにはならないし、ドラえもんをお前らたちに渡さない。そして、消させない」
 のび太は、タイムパトロールの男に向かって怒鳴り、そして怒りを抑えられず本棚から数冊の漫画を出し、タイムパトロールの男に向かって投げた。しか し、タイムパトロールの男は瞬時に手で自分の周囲に謎のシールドをはり、漫画をはじき落とした。
「さあ、もう諦めろ。お前のような弱い人間が私たちに逆らおうだなんて無謀なことだ。潔く人質になれ」
 タイムパトロールの男は、のび太に少しずつ近づいてきた。のび太はそれと同時に後ろに一歩ずつ下がっていったが、あっという間に窓際まで追い詰められた。窓の外で子どもたちの笑い声が聞こえるのが、のび太には信じられなかった。本当に今は笑えるときなのだろうか……、僕には今、笑うことができない。
「もうお前に逃げ場所は無くなった。諦めろ」
 タイムパトロールの男の手には二十二世紀の道具であろう手におさまるほど小さいカプセルがあった。これに僕を閉じ込めるきだな。と悟ったのび太は決心した。諦めるより、無謀なことであってもやってみたら成功するかもしれない。
「僕はドラえもんが消されるための人質になるくらいなら死んだ方がましだ」
 死んだ方がましだ。とは言ったものの、のび太には死ぬ気なんて無かった。僕はこんなことで死なない。僕はこのタイムパトロールの男たちからロボットを助ける。そして、のび太は窓から目をつぶって飛び降りた。


第二話−みんなを信じる−

 目をつむり、勢いよく窓から飛び降りたのび太は、自分が思わずとってしまった行動に対し、少し後悔していた。今、猛スピードで地面に向かって自分は急降下している。死んだ方がましだ。なんて言ったのはいいが、本当に死んでしまうかもしれない。こんなことで死なない。なんていうカッコいいことなんて言っている場合ではなかった。もし、死ななかったとしても骨折なんてことは、絶対に有り得る。
「もうダメだ、死にたくない」
 そうのび太が叫ぶと、地面にのび太の足が近づく直前のところで、今までものすごい速度で落下していたのにその速度が一瞬にして、とても遅いものになった。
「カッコいいこと言って飛び降りたのはいいが、やはり死ぬことが怖かったようだな。意気地なしめ」
 このタイムパトロールの男の声を聞き、のび太は落下速度がコイツによって落とされたものだと悟った。
「で……でも、僕はお前なんかには捕まらないぞ」
「助けてもらっておいて、まだ逃げるつもりか」
 タイムパトロールの男にのび太は黙るしかなかった。一応、タイムパトロールの男は命の恩人である。それなのにまだ逃げるほど、のび太は常識知らずではなかった。
「僕が捕まっても、まだジャイアンたちがいる……僕はみんなを信じる」
 のび太は雑草の生い茂る地面に座ったまま目を閉じた。それはタイムパトロールの男に対する敗北のサインだった。そのサインを感じ取ったのか、タイムパトロールの男は、あの小さなカプセルをポケットから取り出した。
「なかなか勇気のある行動だったよ、私もあれには驚いた……ハハハ」
 のび太はタイムパトロールの男の笑い声にも目を閉じて、グッとこらえた。タイムパトロールの男は笑い声をあげながら、小さなカプセルの中央部にあるボタンを押した。すると、今まで小指ほどの大きさだったカプセルは瞬時にして、タイムパトロールの男の身長ほどの大きさにまで大きくなった。
「さあ、入れ」
 タイムパトロールの男は、のび太にカプセルの中に入るように手でサインを示した。のび太はそのサインと言葉を見聞きし、ゆっくりと立ち上がった。そして、カプセルの中へ終始頭を下げたまま入っていった。その背中からは自分の無力さに対する悔しさと悲しみが感じ取れた。のび太がカプセルの中へ入ったのを確認すると、タイムパトロールの男はカードキーだと思われる青色のカードを取り出し、カプセルの中央部にあるボタンの横にあるカード読取装置に通し、カプセルをロックした。
 カプセルの中は真っ暗であり、床にある小さな小窓から入る、わずかな太陽の光のみが、このカプセルの中の明かりであった。ドラえもんの出してくれた宇宙救命ボートでも、室内はもうちょっとマシなものだった。とのび太は思った。そして、のび太は予想していたよりもはるかに大きい寂しさに、思わず目から涙がこみ上げてきた。のび太は涙を浮かべながら、小窓からとても小さく見える練馬区を見ると、もう自分は二度とここに戻れないのかもしれないという不安が襲い掛かってきたせいか、さらに涙がこみあげてきたせいか、小窓から見る練馬区がぼやけて見えた。そして、のび太は聞こえるはずのない真っ暗なカプセルの中で呟いた。
「さようなら……ドラえもん」
 もう小窓から見えた練馬区には、いつも遊んだ空き地を見ることはできなかった。のび太は自分がどうなろうが、空き地で遊んだ思い出だけは、決して失わせないと泣きながら思った。
 カプセルはあらゆる時間が交差する次元の中を、猛スピードで二十二世紀の悪のタイムパトロール組織により、支配された暗黒空間へと向かっていた。
「首領、人質を捕らえました」

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