第十一話
 『木鳥 高雄』――『骨川物産』の元社員。
編集部にいたが、滅茶苦茶な企画書ばかり書くので、スネ夫が営業課に飛ばしたらしい。
―――が、逆ギレして、会社を辞めたらしい。
 子供みたいだな。でも、最近はこんなのもあるか。
 会社を潰したい、ただそれだけなら、木鳥が盗んだという動機は十分にありうる。
―――しかし、あまりにも発想が子供じみているのに、のび太は疑問を感じた。

 ともかく、木鳥宅に出向く事になった。隣人は関係ないので、これ以上時間をとらせるわけに
もいかない。また、仕事があるようなので来なかった。
 仕事?仕事って何だろう?


「家っていうか、殆ど屋敷に近いな……。」
 確かに、『木鳥』の家は、子供の頃のスネ夫の家に良く似ていた。
 屋根の所なんてそっくりだ。
「よし!入ってみようぜ!!」
ジャイアンが、門扉を飛び越えようとした時、スネ夫が急いで止めた。
「待ってよ!これ、このシールを見て!!」
のび太とジャイアンがそれを良く見てみると、『セコム』(警備会社)の登録シールだった。
「ふぅ、危なかった……こっちが不法侵入で犯罪者になる所だったじゃないか!」
赤くなったスネ夫に責められ、ジャイアンはつまらなそうに口を尖らせた。
 そもそも、人ん家にはいるのに普通柵を越えるか?
 ――インターホンを押すと、すぐ応答があった。
「私だ、骨川だ。」
 さすがに、元・社長。風格がある。当たり前だが。
「あぁ、社長ですか?どうぞ入ってください。」


 家政婦に案内され、木鳥のいる部屋に案内された。
 木でできた廊下は、鼻をくすぐるようだった。
 昔のスネ夫の家より上等な造りだ。
 ――こんな家の奴が、倒産寸前の会社の金なんか、普通盗むだろうか?
 のび太はだんだん不安が募ってきた。
――家政婦が去っていくと、スネ夫は、のび太とジャイアンに何やら耳打ちをした。
「……よし、まず僕が盗んだか否かを見極めるから、二人はじっとしててよ。」
「任せといて!」 「任せとけ!!」
二人は小さい声で了解した。
「なんだか心配……。」
 スネ夫は確認すると、部屋の中に入っていった―――。

―――どうやら、ここは書斎らしい。その奥の机の傍に、煙草を吸いながら
椅子に腰掛けている男。―――『木鳥高雄』だった。

「どうしたんですか?社長らしくないですよ?
 何かあったんですか?」
木鳥は、幾分笑みの含んだ声で言った。 そして、スネ夫は口を開いた。
「じ……実は……私の会社倒産してしまったんだ……。」
 スネ夫はどっと手で自分の顔を押し付け言った。
「え〜!?潰れたのって社長の会社だったんですか!?」
 木鳥は、わざとらしい声で驚いた。
 スネ夫はギラリと木鳥を見つめた。
「聞きましたよ、会社の金庫の鍵が見事に開けられてたって!でもそれって、
 社長の管理ミスじゃないですか?」
 

 その頃、ドアの傍で話を聞いていたのび太は、会社の財産を盗んだのは、『間違いなく』
犯人は木鳥だと確信した。


第十二話 「怪傑解決」
 「バァンッ!!」木鳥邸の書斎に、突然のび太が入って来た。
 目の前には、木鳥とスネ夫が驚愕の目で見ているが、それどころではない。


「一体、何事ですか?」
木鳥がのび太に訊いた。しかし、のび太はそれには答えず、唐突に尋ねた。
「貴方、さっき何と言いましたか?」
 のび太は敬語を使って、声が裏返ったので、ジャイアンは殆ど笑いそうに
なったが、スネ夫が制した。
 なんだか、いつもののび太とは違うような気がした。
「え?会社の金庫の鍵が見事に開けられていたって……それが何か?」
「え、ええ。『金が盗まれた』って事は、どうして知っているんですか?
 社長は、倒産したとしか言ってないんですよ?」
 おお!
ジャイアンは心の中で思わず感嘆した。なんだか分からないが、木鳥の意表を
突いたようだった。
 木鳥は顔を歪めながら、わざとらしく言った。
「フン!だから人に聞いたと言ってるでしょう!!」
「実はこの話、社長は、警察にも元社員にも言っていません……!!それを
 貴方はなぜ知っているんでしょうか……!?」
「ぐ……!」
 木鳥の応答が口ごもった。
「それを知っているのは、被害者の社長、そして―――『犯人』だけなんです……!!!」
 木鳥は、後ずさりをした。
――しかし、意外な一言を放った。
「私が犯人だと言いたいんでしょう? しかし、証拠はあるんでしょうね……!!?」

 スネ夫は、ハッとなった。
 ――確かに、三人で計画(?)を練ったのだが、幾ら探しても物証は見つ
からなかった。 
 いや、それ以前にのび太は、何か考えているのか?
 何かこののび太は変だ。まるで名探偵が乗り憑っているみたいだ。

――のび太は、机の上にあった、ノートパソコンに目を向けた。二人の視線が
注がれる中、のび太はその机に向かっていった。――そして、カチャカチャと
パソコンをいじりだした。
 その光景を呆然と見ていた木鳥は、ハッと気づき、反論した。
「何やってるんですか……!?人のパソコンを勝手に使って!!」

「これを見てください、社長も木鳥さんも……!」
二人が覗き込むと、『骨川物産 営業課 経理データ』と、画面にあった。
「おや、おかしいですね、何でこんな物あるんでしょうか……!?」
「当たり前です!私は、元社員なんですから……!!」
木鳥は、自信有り気に言った。――のび太は、それを聞き逃さなかったようだ
「え〜〜?貴方確か、営業部になった途端、やめたと聞きましたが……!? 
これを開いたのはおそらく、金庫の暗証番号を知るため……ですよね!?」
木鳥は、完全に黙ってしまった。 
 そのとおりだったのだ。


「そうだよ!!俺が犯人なんだよ!悪いか!?」
「!?」
 木鳥は、会社を辞めた時のように逆ギレした。
 スネ夫は唖然とした。
「そこの探偵気取りの言うとおりさ!俺はなぁ、俺なりの企画書を作ったつも
 りだったんだよ!!なのに、それだけで異動しやがって……! この糞野郎!
 死ねぇぇ!」
 木鳥は、バタフライナイフを取り出し、スネ夫に突き立て―――――
られなかった。
 なぜか?それはすでに、ジャイアンが部屋に入ってきて、木鳥の腹部にスト
レートを叩きこんでいたからだった。
 三人は、ニヤッと笑い、Vサインを出した。



「のび太、お前いつからそんな頭良くなったんだよ!!」
 ジャイアンが興奮気味に聞いた。スネ夫は思わず耳を近づけた。
「分からないよ、なんか木鳥の言った事が変だなァと思ったら……。
 なんか、意識が途切れて……。」
 スネ夫は、金が戻ってきて良かった、と笑みをこぼしたが、どうものび太の
変わりよう、そしていきなり間抜けな顔に変わった現象に一抹の不安を抱きつ
つも、歩み始めた。
 事情聴取を終え、三人は川原沿いの道を歩いていた。
「でも、金が戻ってきてよかったな!」
ジャイアンが嬉しそうに言った。
「良かった事は、もうひとつあるよ!」
 のび太が言った。
「何だ?」
「それは……二人に久しぶりに会って、皆で協力できたからさ!」
 ―――三人は、夕焼けに染まった道を、笑いながら走り去っていった……。


第十三話

 「ドンドン!!」
誰かが、またしきりにドアを叩いている。
 またか――。
 のび太は、布団の中から寒い世界へと飛び出した。あくびをしながら、ドアを開けた―――。


 そこには、隣人が立っていた。
 相変わらず、地味なコートを着ている。もう少し、ましなものを着れば、可愛く見えるのに。
しかし、そんなのはのび太の考えであって、何も強制するものでもない。
 気付くと、隣人の顔がのび太の顔のすぐ前に来ていた。 
「うっ、うわぁぁ!びっくりさせないでよ!」
 隣人は、のび太の反応にお構い無しに、口を開いた。
「あの……下で武さんが呼んでますよ……。」
「え?」
 のび太は、テラスの柵に身を乗り出し、下を見た。
 落ちるか落ちないかのギリギリなところだったので、のび太を見ていた隣人は、内心ハラハラしていた。
 しかし、それは杞憂で、のび太は下に落ちなかった。 ――もっとも、のび太はその後、本当に落ちそうになるのだが――
――引越しセンターのトラックが、三台程停まっている。その中から、見たことのある大男が出てきた。
 そう、あの大男。
「お〜いのび太〜!俺、今日からここに住む事になったぜ〜!!あ、俺の部屋、『301』だか
 らよ〜!!今夜飲み会やるから来いよ〜!来ないと全身の骨折るだけじゃすまねぇからなぁ!」

 
 笑いながら、信じられない事を言っている。よくもまぁ、笑えるものだ。
 人間には、どんな悪人にも、何もできないダメな奴でも、良いところはあるものだ、と聞いた事がある。
 ジャイアンの場合はそれだな。しかし、自分には良いところなんて、あるのだろうか?
 実際、そんなものは自分より他人が気付いているものらしい。
 しかし、あれが他人? 
 のび太は、ジャイアンを見ながら舌打ちした。―――ふと、時計を見た。
 古ぼけた文字盤の時計は、『八時四十二分』を回っていくところだった。
「ゲ!!遅刻する〜〜!!」
のび太は似合わない声を出しながらも急いでスーツを着、パンをくわえて、鞄を持って、部屋から飛び出
した。
 ――その時。あれが無ければ、本当に良かったのに。


「いってらっしゃい。」


 それは、隣人の声だった。確かに。急いでいたので、確認はできなかったが、返事をした。
「行って来ます。」
 それはまるで、夫婦のあいさつに似ていた。
 のび太は変な気持ちで、猛スピードでおんぼろマンション(こんな事管理人に聞かれたら、大変な事になる)
を出た。すぐ傍でジャイアンが手を振っているが、無視した(帰ったら、半殺し確定)。




「やれやれ、こんな田舎にも酸性雨か……。」
のび太は、酸度測定器(PS社製 八千五百円)を木から抜き出しながら呟いた。
 本当に、世の中変わってしまったものだ。
 僕が二年間いなかっただけで、こうも悪くなってしまった。
 最近は、かなり昔にあった光化学スモッグがまた東京や大阪だけでなく、郊外でも発生しているらしい。
そう。のび太は、この現状を調査し、抑制していた。 しかし、たまに思うことがある。
 ――本当に、抑制するだけでいいのだろうか。子供達は、昔の自分みたいに思いっきり自然と遊べず、家の中や病院で
人工呼吸器や細菌及び悪害空気完全遮断部屋に押し込まれ、息苦しい思いをしているに違いない。だから、僕は昔の、とまでは
言わないけど、あの”裏山”を復活させて、各地に広めたい……。――
 だが、すぐに自分が警察に追われている身ともいうのに気が付いた。
やはり、今は無理だ。だが、諦めない。 それだけは確かだ。

 それを道具箱にしまうと、隣人の言っていた『行ってらっしゃい』が脳裏をよぎった。

 あれは、何のために言ったのだろう……?もしかして、僕を好―――いや、有り得ない。
また、静香ちゃんの時みたいになるに決まっている。 忘れよう。


 のび太が事務所に戻ると、後輩が報告に来た。
 真面目、とまでは行かないが忠実で従順な後輩が、報告に来た。
「どう?例のウロメレナイ菌の繁殖防止の特効薬はできた?
「あの、先輩、お婆さんが来てるんですけど……。」
「お婆さん? 誰だろう……?」

 待合室に入ると、七十代前半の老婆―――管理人が座っていた。この人ニガテだな、と思いつつも、声をかけた。
「あの、何ですか?」
「何じゃないよ!!家賃だよ!毎月十五日払う日って言っただろ!『七万五千円』とっと出しな!」
 なんで、いつもカリカリしているんだろう。
「あ、そうでしたね!!(聞いてないよ、そんなこと)」
のび太は急いで、財布の中を探った。―――四万円。とても足りない。残りは、小銭がチャラチャラなっている。
「あの〜、口座に取りに行っていいですか?」
 無論のこと、口座なんて無かった。しかし、時間稼ぎを計ろうとしていた。
「もういいよ!明日払いな!」
 そうぴしゃりと言うと、待合室を出て行った。


第十四話

 「ドンドン!!」
また、誰かがしきりにドアを叩いている。のび太は、また嫌な予感がした。
 今度は、一体誰だ?
 ―――折角の休日なのに―――のび太が目をこすりながら、ドアを開けた。


 そこには、どこかで見た事のある顔の、大柄な女がたっていた。過去に、キューピッドの矢という
道具で、追いまわされた事があった。―――そう、『ぼた子』(本名かどうかは不明。まぁ、もっとも
のび太は知りたくも無かった。)!!
「あのー、何の用ですか?」
 のび太は、おそるおそる聞いた。
「何じゃないわよ!あんた私の顔忘れたの!?」
 朝っぱらから、近所迷惑な声で怒鳴る。

忘れる訳ないだろ?こんな、ゴツイ顔―――。心の中で呟いた。

「ぼた子さんでしょ?勿論、覚えてますよ!」
のび太は、顔を引きつらせながら答えた。
「そうよ。確かアンタ、親友を助けたそうじゃない。だから、私も助けてよ、お願い〜〜♪」
 似合わないぶりっこで、ぼた子が身をくねらせる。
「それって、僕に関係無いんじゃ……」
 正直に言い過ぎた。のび太脳裏に頭に不安と言い知れぬ恐怖がよぎった。
―――のび太の意識が定まっていたのは、それまでだった。なぜか?それは、のび太の頭に引越
初日の衝撃が走ったからだった。


 気づくと、コンクリートばかりの部屋に、いや廊下に居た。
「早く起きろよ!!」
 近くに、大きすぎる巨漢――ぼた子――がいた。どうやら、ぼた子に殴打されて気を失ったまま、
連れて来られたらしい。
男として、あまりにも情けなく思った。
 のび太は、ふと自分の後頭部に手を触れた。
 頭がガンガン痛かった。幸い、血は出ていないようだった。
 この場所は、見た事も無い。多分、マンション(?)の1階の廊下らしい。
「あんた、104の売れない作家を追い出してよ!!」
 ぼた子がさっきよりも大きく怒鳴る。
 『え!?何で!?』
 と反論しようとしたが、さっきの衝撃を思い出し、言うのをやめた。
 また殴られたら、今度こそ死ぬかもしれない。

「いいけど……ところで、何で僕に頼んだの?」
 ぼた子は『それでいいんだよ』、という顔をしてみせた。
 そして、何か白くヒラヒラしているものを取り出した。
「今日の朝、郵便受けにこんなハガキが入っていたんだよ。」
のび太は、思いっきり投げられたハガキをキャッチして読んだ。それには、こう書いてあった。


『野比のび太は、元高角三を知っている』


誰が、こんな物書いたんだろう―――?ジャイアンと、スネ夫の悪戯か?
 だとすれば、どうして知っているのだろう?
 それに、こんな事して何が―――。
「おい!早く追い出せよ!!」
ぼた子のドラ声に、のび太は我に返った。
「わ、分かったよ。」
のび太はまだ痛む頭を抑え、いやいや元高角三の部屋、104のインターホン(?)を押した。
―――誰も出てこなかった。いや、インターホン(?)が壊れていたのだ。
 どうりで、音が鳴らなかったはずだ。
相当ボロイな、このマンション(?)。仕方なく、ドアを叩いた(のび太の部屋もこうしている)。
「……?」
応答なし?作家って普通、カンヅメとかいって、部屋に閉じこもるのでは?
 のび太はやるせない気持ちで、ドアノブを引っ張った。
ドアは、なんと、無用心にも開いていた。のび太は、そっと中に入った。


―――中には、原稿用紙が散乱していた。その奥に、白髪頭の老人がうつ伏せになっていた。
死んでいるのか?ピクリとも動かない!!
 のび太は、急いで駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、大丈夫だよ……君、どこかで会わなかったかい?」
「い、いいえ……。それより、ちょっとお話が……。」
「聞いてたよ、僕を追い出したいんだろ?」
「ち、違います!そんな事は――」
「いいんだよ、荷物なんかないから、すぐ出て行けるよ。」
そういうと、スックと立ち上がり、部屋に散らばった原稿用紙を集め始めた。

のび太は、力なく出て行った。
 


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